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梔子ゆきがヴァンパイア・クロニクルズの話をするために作ったブログ。偏見の混じった感想など。
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プロフィール
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梔子ゆき
性別:
非公開
自己紹介:
腐女子歴がそろそろ人生の半分を越えた。
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そんな薄氷を踏むような日々が続いたある夜。
ついにクロウディアの計画は実行に移され、レスタトは惨殺されます。

夜ふけに帰宅した時は僕も満足して、しばらくの間は、例の僕を悩ますもろもろの考えから解放されていた。だが、今夜がその時なんだな、とその時だんだん気づき始めた。彼女は今夜やるつもりなんだ。
どうして悟ったのかは、うまく言えない。僕たちの住い(フラット)の様子が僕を不安にしたし、同時に警告を発していたんだ。
クロウディアが裏の客間にドアを閉めてはいっていた。客間で、どうも誰かの囁き声が聞こえるような気がした。クロウディアが僕たちの住居に誰かを連れ込んだためしは一度もなかったんだ。(中略)だが、誰かがその部屋にいるのがわかった。
そこにレスタトが帰ってきた。何の歌か、低くひっそりと口ずさみ、ステッキで螺旋階段の手すりをラッタッタと叩きながら上がってきた。彼は細長いホールを抜けて入ってきた。顔は殺しのおかげで紅潮し、唇もピンク色をしている。そして抱えていた楽譜をピアノの上に置くと、「私は奴(※音楽家のこと)を殺したと思うか、それとも殺さなかったと思うか?」僕を指さしながら、彼はいきなり質問を投げかけた。
「わかるか?」
「殺さなかった」
僕はぎこちなく答えた。
「だって、君は一緒に行こうと誘っただろう。あの殺しをするのなら誘うはずはないからな」
「はっ、ところがだ! 私はカッとなって殺ったんだ。お前が一緒に来てくれなかったからだぞ」
そう言うと彼は鍵盤のおおいをサッとあけた。(中略)
彼は浮き浮きしていた。彼が楽譜をたどって指先で鳴らしてゆくのを見守りながら、僕は考えていた。
彼が死ぬなんてあり得るだろうか? ほんとに死ぬなんて果たしてあり得るだろうか? そして彼女はそれをやってのけるつもりなのだろうか?
ある瞬間など、僕は彼女のところへ行って告げたいとさえ思ったね。僕たちは何もかもあきらめなくてはならない、約束している旅行さえも、そして今まで通り暮らさなければならないよ、と。
だがこの時、もう後には引けないという気がしていた。彼女がレスタトを質問責めにしはじめたあの日から、これは――それがどういう結果になるにせよ――避けられないことだったのだ。
すると責任を感じて、僕は椅子に坐りこんで気持ちを沈めた。
(中略)
「どうだ、彼を殺ったと思うか?」
彼はまたしても訊ねた。
「いや、殺らなかった」
僕もくり返し答えたものの、その正反対の答をしかねないところだった。僕はひたすら仮面のような表情を保つことに神経を集中していたのだ。
「その通り。殺らなかったのさ。奴に近寄ってじっくり考えると、ぞくぞくするんだ。殺せるんだぞ、殺してやるぞ。だが今すぐにじゃないぞ、とね。その後で彼と別れ、できるだけ彼に似た誰かを見つける……彼に兄弟があれば……うむ、私は次々と片づけるだろう。で、その一族は、体から他ならぬ血が干上がるという摩訶不思議な熱病にたおれるというわけさ!」
彼は動物が吠えるような声で嘲るように言っている。
「クロウディアも一族まとめてというのが好みだったな! 一族と言えば、お前も耳にしたことがあるだろう。フルニエール家には幽霊が出るそうだ。奴隷監督は居つかないし、奴隷たちも逃げ出すんだとさ」
(中略)
裏の客間のドアが開き、クロウディアの足音がホールを通ってこちらに向かってくるのが聞こえた。
来てはいけない、クロウディア。僕は気配を察しながらそう思った。僕たちが皆破滅してしまう前に、立ち去るんだ。だが、彼女はそのままためらうこともない足どりでホールの鏡のところまで歩いてきた。彼女が机の引き出しを開ける音、続いてヘアブラシを使う音が聞こえた。花の香りの香水をつけている。彼女が部屋の入口までやってきた時、僕はゆっくり振り向いて彼女と向かい合った。
彼女はまだ白ずくめだった。そしてピアノの方へと、カーペットの上を音もなく斜めに横切った。そして鍵盤の端の方に立ち、板の上で手を組むと、顎を手の上にのせた。視線はぴったりレスタトに注がれている。
僕にはレスタトの横顔も、その向こうの、彼を見上げている彼女の小さな顔も見えた。(p209-212)


さて。ここから先はいよいよ、クロウディアによるクロウディアの為のレスタト惨殺シーンに入っていくわけですが、皆さまお気づきでしょうか。
この後、実に8ページに渡って、ルイは一言も喋りません。
そして、8ページぶりに喋った言葉が何かというとですね、

「クロウディア、そんなことしてはいけない!」(p220)

って言うんですよ。

いや、遅いだろー!
それ言うなら、もうちょっと早く言わなきゃ意味ないだろー!
本当に……この辺りのルイの言動、心情描写っていうのは、本当に中途半端としか言いようがないです。それも含めてルイの性格と言ってしまえばそれまでなんですが。
ルイはクロウディアの殺意にずっと以前から気づいていたわけなので、この場に至る前にもう少し自分のスタンスを定めておいても良かったんじゃないかな~と思うんですけどね。それはつまり、レスタトとクロウディア、どちらを選ぶのかということですけれども……決められなかったんでしょうね。
もっとも、ルイはそもそもレスタトが本当に死ぬとは端から信じていないような節もあります。「彼が死ぬなんて果たしてあり得るだろうか?」と何度も自問している。
今更といえば今更なんですが、この部分は、レスタトがルイの心身をどれほど深く支配していたかを端的に表しているように思います。ルイが「レスタトは不死身だ」と信じているのは、一見無理もないように思えるんですが、よく考えると客観的な根拠はないですよね。実際(この時点では)不死身ではないし、ルイ自身、レスタト殺しを試みたことはないわけですから。
もしかしたら、レスタトには「殺しても死にそうにない」雰囲気があるのかもしれません。云わば「カリスマ性」といいますか、「どんな危機に陥っても、アイツなら絶対生きて帰ってくるに決まってる!」っていう、主人公オーラみたいなものが。
そういう意味で、ルイはレスタトのことを信じきっているのだな~と思いました。

――が、レスタトは死にます。

レスタトがついに息絶えてしまうと、ルイは放心状態のまま、クロウディアにせっつかれるがままにレスタトの遺体を沼へ捨てにいきます。この、ルイがレスタトの遺体を見送る描写は、梔子的にヴァンパイア・クロニクルズの名シーンTOP5に入る名文です。

僕はとうとうレスタトの死体を腕の中から水の中へすべりこませた。僕は水面近くにわずかに見える白い定まらぬ形をしたシーツを見ながら、身も心も震えてじっと立ちつくしていた。(中略)
これがレスタトか。これが変身と謎のすべてなのか。死んで永遠の暗黒に没してしまうではないか。
僕は不意に自分を引き寄せる力を感じた。何かの力が、彼と一緒に沈んでゆけ、暗い水の下に沈んでもう決して戻ってくるな、と僕を促しているようだった。(p224)


大好き!! やばくない? レスタトと一緒に永遠の暗黒に沈みたいルイ、やばくない?(いや、やばい←反語)
レスタトという絶対の存在を喪ったルイは今や、地上に彷徨う哀れな子羊となってしまったのですよ!
しかし、ルイにはクロウディアという『幼い』子どもが、置いていくことのできない娘がいました。

レスタトを殺害した翌日、クロウディアは遺品を引っ掻きまわして、レスタトが果たしてどこからやってきたのか、誰が彼をヴァンパイアにしたのかを知る手がかりを探し求めましたが、何も見つからずに絶望します。

「何もないわ!」
彼女はしまいに愛想をつかした。衣類を炉の火床に詰めこんだ。
「どこからきたのか、誰に作られたのか、手がかりの一かけらもないんだわ!」
そう言って、さも僕の同情をあてにしているように僕を眺めるのさ。僕はうしろを向いてしまった。見るに耐えなかったんだ。(中略)
「彼が死ぬのは当然の報いよ!」
彼女が言った。
「それなら僕たちも死んで当然だ。同じことだ。僕たちの夜の生活のことを考えてみろ」
僕はぴしゃりと言いかえした。(中略)
「きみの面倒は見てゆくよ。きみはひとりでは自分の面倒が見られないのだからね。だが、そばをうろうろして欲しくない。きみが自分用に買ったあの箱のなかで寝るんだ、そばに来ないでくれ」
「ああするつもりだと言ったじゃないの。そうでしょう……」
彼女はそう言った。彼女の声がこんなに弱々しく、小さな銀の鈴のように聞こえたことは初めてだった。(中略)
「ルイ、言ったでしょう!」
彼女の唇はわなわなと震えていた。
「あたしたちのためにしたのよ。あたしたちは自由になれるのよ」
彼女は見るに耐えなかった。その美しさ、見かけの無心さ、おまけにこの凄まじい訴えかけはどうだ。
僕は彼女の横をすり抜けた。気がつかなかったが、たぶん押しのけるようにしたのだろう。そして階段の手すりまでくる直前に、聞きなれない音を耳にした。
僕たちが一緒に暮らした年月のなかで、こんな声ははじめてだった。(中略)
彼女が泣いていたんだ!
その泣き声は僕を心ならずも後戻りさせた。(中略)
「ルイ……あなたを失ったら、あたしには何もないの」
彼女は囁いた。
「あなたを取り戻すためなら、してしまったことを元に戻したいわ。でも、してしまったことはもう取り返しがつかないのよ」
両腕を僕にまきつけ、僕の胸によじ登るようにしてすすり泣くんだ。僕はしぶしぶ手で彼女に触れたが、やがてどうにもならないように手が勝手に動いて彼女を包みこみ、抱きしめ、その髪を撫でていたんだ。
「あなたなしで生きて行くくらいなら死んだほうがましだわ。彼と同じような死に方をしたほうがましよ。さっきみたいな目であたしを眺めるならもう我慢できない。あなたがあたしを愛してくれないなら、もう駄目!」
すすり泣きはますます大きく激しくなり、とうとう僕はかがんで彼女の柔らかな首筋や両頬にキスをしてしまった。(中略)
「よしよし、いい娘だ……」
僕は言った。
「よしよし、いい娘だ……」
そして彼女をそうっと静かに腕で抱きしめ、うとうととまどろむまでそうしていた。彼女は、あたしたちは永遠に幸福なのよ、レスタトから永久に解放されたのよ、あたしたちの生涯の大冒険の門出よ、などと呟いていたな。
あたしたちの生涯の大冒険か。この世の終わりまで生き続けられるというのに、死ぬことに何の意味があるというのだ。(p225-228)


さて、どうですか皆さま。この、ルイの恐るべき優柔不断さ!
クロウディアがレスタトを殺すのを止めもせずに見守って、死体処理にまで手を貸しておきながら、この期に及んでクロウディアに対するこの言いよう。
あなた、クロウディアが殺害計画を実行しようとしていることに気づいてましたよね?
『やめるように言いに行こうかな~と思ったけど、クロウディアの殺意は自分にも責任があると思ったから、椅子に坐りこんで気持ちをしずめた』んですよね!? 上に引用した原文にそう書いてあるよ!!
ルイに、クロウディアを説教する資格なんかあるんでしょうか。この部分におけるルイの怒りは、客観的に見てもちょっと納得がいきません…。
そんなに怒るくらいなら、クロウディアが実行に移す前にもっとハッキリ自分の立場を明らかにすべきだったし、しかも……怒ったわりには、ちょっと泣いたくらいで許しちゃうとか、何なの? いや、クロウディアがじゃないよ? ルイ、お前の怒りはほんと何なの?

『見るに耐えなかった』とか、『しぶしぶ手で触れた』とかいう描写を見る限り、ルイは本当はクロウディアを許したくなかったのだと思います。ただ、彼女があまりにも小さく、か弱く、哀れな存在だったので、憎しみを持続できなかっただけなんですよ。そういうのは「許し」とも言わなければ「優しさ」とも言わないと、個人的には思うのですがね。
結局のところ、ルイは夫と娘と3人で暮らす生活が幸せだったので、その暮らしがずっと続いて欲しかっただけなんだなと思います。
クロウディアがレスタトに殺意を抱いた時、ルイは「無理もないことだ」と思ってはいたけど、その2人がもはや共存できないという現実を受け入れてはいなかったんですね。どちらかがこの世から消えると覚悟できていたら、ルイもどちらかを選ばざるを得なかったはずです。
これは完全に私の想像になってしまうんですけれども、これ、たまたまクロウディアの計画が成功したからこういう展開になってますけど、もしレスタトが正当防衛でクロウディアを返り討ちにしていたら、それはそれで怒るんでしょ?と思うと、本当に……私はルイファンですけど、何とも言えない。
あと個人的には、ルイに突き放されたくらいで『してしまったことを元に戻したい』などと口走ってしまうクロウディアも、ちょっとどうなのかと思わなくもないです。レスタトの死が、あまりにも軽く扱われすぎていて、さすがに可哀想になってきます。

おいおい、君たち家族だろ。何故、イチ読者でしかない私の方が居たたまれなくならなきゃならんのだ!

レスタトはレスタトなりに、ルイとクロウディアのことを本当に愛していたのにね…。

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クロウディアの中に芽生えたレスタトへの殺意は、衝動的な感情から、次第に確固たる信念へと姿を変えていきます。殺害計画を打ち明けられたルイは何とか彼女を押しとどめようとしますが、それは最早必然の成り行きとも言うべきものであって、到底食い止められるものではありませんでした。ただでさえルイには、かつてレスタトがクロウディアを永遠の苦界に引きずり込んだ時、片棒を担いだという負い目があります。そんな彼に、クロウディアを諭すことなどできるはずがなかったのです。

起こるべくして起こる惨劇の気配に耳を研ぎ澄ませているルイの胸中など露知らず、レスタトはクロウディアの反抗を不快に思いこそすれ、それが自分の生命を脅かす程の大事だとは想像もしていませんでした。
しかし、ルイの心が自分から離れ始めていることはやはり見過ごせなかったのか、翌晩(※前回記事参照:レスタトが「お前は死を望んでいるのか?」とルイに尋ねた翌晩です)、レスタトはルイをデートに誘います。
自分がパトロンをしている、音楽家の青年の家に一緒に行こう、と誘ったのです。

その音楽家の青年は、ルイ曰く、珍しく長続きしたレスタトの『友人』でした。

レスタトはそこにしげしげと彼を訪ねていたわけだ。彼が獲物を弄び、彼らと友達関係になり、彼らをたらしこんで信じさせ、彼に好感を持つようにしむけ、愛させることさえしてその上で殺す、ということはもう話したな。そういうわけで、見たところどうやら彼はこの若者を弄んでいた。
とはいうものの、それまで僕が観察したどの友情よりも長続きしていたな。
その若者はいい音楽を創っていた。レスタトはよく、そのできたての楽譜を持ち帰っては、客間の四角いグランドピアノでその曲を弾いてみたりした。(中略)
レスタトは彼に金を与える、幾晩も続けて彼と過ごす。その音楽家ではとても足を踏み入れることもできないような高級レストランにもしばしば連れてゆく、また音楽を書くのに必要な紙やペンなどすっかり買い与えたりする、といった具合だった。
前にも言ったように、それはレスタトのそれまでの友情の中でも最も長続きしていたんだ。さすがの彼も一人の人間をほんとうに好きになってきたのか、それとも彼独特の偉大な裏切りと残忍行為へと移ってゆく単なる過程に過ぎないのか、僕にはさっぱり見当がつかなかった。(中略)
そして、もちろん僕の方でも彼がどう思っているのかなどとは決してたずねなかったね。何故って、その質問が巻き起こすであろう大変な騒ぎに比べたら、黙っていることなんか大したことはなかったからね。
レスタト様がたかが人間にうつつを抜かすだと!
そう言って彼はかっとして客間の家具をめちゃめちゃにしただろうよ。(p206-207)


……はい。
ルイがその関係を本当に友人だと信じているんだかどうなのだか、また、世間一般の皆様がどう捉えたものだかはわかりませんけれども。私はあえて言い切りたいと思います。

愛人ですね。

この時、レスタトが一体なぜルイを音楽家のもとに連れ出そうとしたのか、正直言って私にはよくわかりません。少し穿った見方かもしれませんが、これは間違いなく、愛妻を妾宅に出向かせようとした行為であり、「妬いて欲しくて」などという甘っちょろい言い訳では済まされない行為です。断られるに決まってるだろ。馬鹿なの?レスタトは馬鹿なの?
しかし、まあ細かいことは置いといて、レスタトにとってその音楽家との交遊は余程お気に入りの娯楽であったということなのでしょう……。
ルイがレスタトに、「彼のことを本当はどう思ってるの?」って訊けなかったのは、本当にレスタトが暴れるのが面倒くさかったからなのかな~?(笑)
レスタト視点の続刊にて、「ルイがレスタトに『捨てないでくれ』と縋った夜があった」とさらっと暴露されている箇所があるのですが、それが本当だとしたら、たぶんこの音楽家に関連した話だったのだろうと私は勘繰っています。

彼が若者(※注:音楽家)の住まいに一緒に行ってくれないか、と哀れっぽい声で頼んだものだから僕はぎくりとした。だいたい彼は、僕なんかと友達付き合いをしたい雰囲気の時は、確かに友好的だった。(中略)
いい芝居やオペラの定期公演、バレエを見たい時には一緒に来て欲しがるのさ。僕は彼と一緒に『マクベス』を15回は見たはずだ。それが上演される度に行ったものさ。素人公演まで見に行くんだからね。僕の方から一言二言、彼の友情をよろこんでいると仄めかすだけで、こういうお付き合いから何ヶ月かは逃れることができた。いや何年もね。
ところでこの時、彼はそういった気分で僕のところへ来て、若者の家に行ってくれとせがんだのだ。彼は僕の腕を取ってせがむ以上のことはしなかった。
僕はといえば、気が重くぴりぴりしていたので、気のない口実をかまえた。(中略)こんなに悪い予感がするのに、どうして彼は何も感じないのか不思議だった。
彼はついに床から書物を拾い上げて僕に投げつけ、怒鳴った。
「じゃあ、おまえは益体も無い詩でも読め! くだらん!」
そして飛び出していった。(p207-208)

果たしてレスタトというキャラクターは本当にどうしようもない男だと思うんですけど、この、
おそるおそる、期待を込めてルイを誘ったのに袖にされてしまって、癇癪を起こすレスタトは可愛いとしか言いようがないですよね。腕を取ってせがんじゃうんだよ!? かわいい。いや、かわいいよ。
しかもこのシーンのどこが萌えるって、この直後に、ルイの

僕はこれで不安になってしまった。どんな不安だったかうまく言い表せないがね。彼が冷静に、感情を見せずに行ってくれたらなあ、と思ったものさ。

っていう心情描写が続くとこですよ。
この時ルイは、クロウディアによるレスタト殺害計画のことでただでさえ情緒不安定だった。当然、そんなことをレスタトに打ち明けられるはずはないのですが、でも本当は、ルイはレスタトに自分の不安を理解して、寄り添って欲しいと思っていたんだろうなという気がします。

もしこの頃、ルイがクロウディアでなくレスタトを選んでいたら。

レスタトに全てを話していたら、どうなっていたんでしょうか。
ルイはこの後、クロウディアに殺されかけたレスタトを見殺しにします。そのことは、レスタトがルイに対して後々まで深い不信感を抱く切っ掛け――というか、むしろ不信の根源ともいうべき事件となるわけですけれども、もしここでルイがレスタトを選んでいたら、2人は100年後も相思相愛の恋人同士のままでいられたんでしょうか…?

……すみません、すごく一生懸命考えてみたんですけど、やっぱり想像がつきませんでした。
たとえ過去をやり直せるとしても、ルイはきっと、クロウディアを守ろうとするんだろうな。それが、破滅を先延ばしにするだけだとわかっていても。

拍手[7回]

本日更新した「お前は死を望んでいるのか?」に関する記事についてですが、改めて読み返していたら、

「ちょっと論理が飛躍しすぎかも?」

「あまりにもレスタト×ルイフィルターがかかりすぎかも?」

と自分で思ったりしたので、それはそれとして、別の解釈も考えてみたくなりました。

レスタトの、「でも、おまえならそのわけを知ってるだろう。おまえはそれを終わらせたいのか?」という台詞。
私は、クロウディアに向けたものと考えると違和感があったので、「ルイに向かって言っているのかな」と思ったのですが、もしこれが本当にクロウディアに向かって言ってる台詞だとすると、どういう意味になるでしょうか。
さしずめ、
「お前だって、不老不死の価値は理解しているだろう。お前はそれを捨てたいのか?」
といったところですかね。
で、直後振り返ってルイに「お前はどうなんだ? お前も死を望んでいるのか?」と尋ねる、と。
一応、これでも会話としては成立しています。本当に、彼らの台詞に言葉以上の含みがないパターンです。
ただし、クロウディアが「自分がどんな存在であるのかを自覚したいだけで、死を願っているわけではない」とハッキリ言っているのに、レスタトがしつこく「質問に答えろ! お前は死にたいのか!?」と詰め寄っている点にはやはり違和感が残りますが…。

あと、この流れでいくと、最後にレスタトがルイを怯えた目で見つめていた理由も想像がつかないですね。クロウディアとの喧嘩に、薄らと家庭の破綻を感じていたのかな…程度の可能性しか(←推しカップルの妄想から離れると途端に想像力が枯渇する;)


ところで、レスタトが「自分の存在理由なんてものに拘るんじゃない!」と2人を一括し続ける理由は、個人的には何となくわかる気がします。人間だって、誰しも存在理由なんてありはしないのに、それがある日ヴァンパイアになったからといってそこに御大層な意味なんか生まれるわけがないものな。
まあ、後天的に別の生き物に生まれ変わるという特異な体験を経たが為に、そこに特別な意味を求めたくなってしまったルイやクロウディアの気持ちもわかるっちゃわかるけど。

「私たちはどうして、どこから生まれたの?」

と尋ねられ続けたレスタト、超イライラしただろうな。
もしも私が、来る日も来る日も幼児に付き纏われて「ねぇねぇ、人間って何?」「どうして私は人間なの?」「お母さんのお母さんはどんな人?」「そのまたお母さんはどうだったの?」って訊かれ続けたら、たぶん発狂すると思う…。
「うるせぇ! 人間として生きることが素晴らしいと感じられるなら、何も考えずに生きろ! 嫌なら死ね!! 何なの? 死にたいの?」
としか言えない。

つくづく、第1巻におけるルイの偏見まみれの描写の中にあってすら、レスタトはいつも真実に一番近い男なのだな。

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クロウディアが、レスタトとルイの娘として迎えられてから65年。
『大人』になったクロウディアは、自分たち3人が周囲の人間たちと全く異なる存在であることに疑問を抱き始めました。何故、自分たちは人間とは違い、年を取らないのか? 何故、自分は大人になれないのか?
それは、どんな方便を以ってしても避けることのできない、彼女が当然抱くべきアイデンティティへの葛藤でした。
当然の成り行きとして、クロウディアはその答えを『親』であるレスタトとルイに求めます。
しかし、レスタトもルイも、彼女を納得させられるような答えを持っていませんでした。

「自分のルーツを知りたい」と、ヴァンパイアの起源や、自分がヴァンパイアへと変じた理由を問い続ける彼女に、レスタトは、
「そんなことには何の意味もない」
「ヴァンパイアになったおかげでお前は老いもせず、死にもしないで済んだんだ!」
「ヴァンパイアの命に感謝しろ!」
と一方的に怒鳴り付けるばかり。
しかしルイには、レスタトのようにクロウディアの葛藤を頭ごなしに押さえつけることはできませんでした。
ルイはクロウディアを、彼女と初めて出会った廃屋に連れて行き、彼女がヴァンパイアになった時の経緯を話してやりました。彼女が、ルイの初めての人間の獲物であったこと。レスタトが、彼女を人ならざる者へ生まれ変わらせたことーーー。

真実を知ったクロウディアはショックを受け、2人に対し反感を覚えます。しかし、だからといって彼女には、その仮初めの家庭を飛び出していくことなどできませんでした。
彼女の体は、わずか5歳の少女のまま。人間社会の中で怪しまれずに生活するためには、大人の保護者が必要不可欠だったのです。

ところで、クロウディアに彼女の「誕生」の秘密を明かしてしまったルイは、しかし一方で心の重荷が下りたようでもあり、以前よりも率直に彼女と語り合えるようになりました。
ルイは彼女に問われるまま、自分をヴァンパイアにしたのはレスタトであったこと、自分がかつてクロウディアと同じようにヴァンパイアの起源を知りたいと願ったこと、そして、そんなルイに対してレスタトがやはり何一つまともに答えられなかったこと等を、包み隠さず話してやりました。
この時のルイが、具体的にどんなことを、どんな風に語ったかはざっくりとしか描かれていないので、詳しくはわかりません。
しかしルイが自分と同じようにヴァンパイアに「された側」だと知ったクロウディアは、やがてルイを許し、憎しみをレスタトに集中させるようになります。

そして、ついに彼女はルイに言いました。

「あなたのことは愛してるわ。でも、彼を許すことはできない。彼と別れなくちゃ」

別れるとはいっても、ルイは、レスタトが簡単には自分達を手放さないだろうということがわかっていました。しかし一方で、クロウディアの憎しみはもはや押し止められるものではないということもわかっていたので、クロウディアの願いを叶えるため、レスタトと別れようと画策し始めます。
財産を持たない彼の為(ルイはレスタトが貧乏だと思い込んでいました)、少しでも円満に離れられるようにと、彼に資産の一部を譲渡し、 ルイがいなくなっても豊かな生活を送れるよう配慮してやったりしました。
しかし、ルイがあくまで平和的に解決しようとしている陰で、クロウディアは冷酷な決意を立てていたのです。
すなわち、彼を亡きものにすることを――。


さて。
今回はこの辺りの展開から、クロウディアがレスタトを質問攻めにするシーンをクローズアップします。
私は当初、特にこの部分に注目していたわけではなかったのですが、先日ブログ読者さんから「この部分のレスタトの心情が気になります」とコメントを頂き、改めて読んでみたところ大変面白い表現があることに気づいたので、私なりの解釈とともにご紹介させて下さい。
今まで気づかなかったけど、このシーンめっちゃレスタト×ルイですよ!!

(クロウディアが)ヴァンパイアの書物を読んでは、レスタトを質問責めにする時の冷静さには僕も舌を巻いたほどだ。彼の痛烈さにもたじろがず、折りに触れご丁寧に同じ質問を、いろいろな訊き方でくりかえし訊く。あのレスタトが見落としている点はないものかと、じつに注意深く考えをめぐらせるんだ。
「どんなヴァンパイアが今のあなたにしたの?」
と彼女は訊くんだ。書物から顔も上げず、彼の猛攻にさらされても睫毛を伏せたままでね。
「どうしてその人のことを話してくれないの?」
彼女は続ける。彼の猛烈な反対などどこ吹く風というようにね。彼の苛立ちには免疫になっていたんだな。
「貪欲な奴らだ、揃いも揃って!」
次の夜、暗い部屋のまんなかを大股で行ったり来たりしながら彼は言った。クロウディアを怨みがましい目で睨むんだが、彼女のほうは、お気に入りの隅っこにおさまり、自分用のローソクのあかりの輪の中でまわりにうず高く愛読書を積み重ねていた。
「不老不死の生命だけじゃまだ不足というんだな! そうなんだ。おまえたちはありがたい贈り物にけちをつけようって気なんだ。私はそいつを、街を歩いている誰にでもくれてやるぞ。喜んで飛びついてくるだろうよ……」
「あなたは喜んで飛びついたってわけ?」
彼女はほとんど口も動かさずにそっとたずねる。
「……でもお前は、お前ならそのわけを知ってるだろう。お前はそれを終わらせたいのか? 死を与えるのは、生を与えるよりずっと簡単なんだぞ!」
彼はくるりと僕の方をふり向いた。彼女のローソクの微かな明かりが彼の影を僕の方に投げかけた。その明かりで彼の金髪は後光のような光の輪に見えたが、頬骨を照らしただけで、顔は影になったままだった。
「お前、死を望んでるのか?」
「自覚することは死とは違うわ」
「質問に答えろ! 死を望んでるのか!」
「あなたがこういったすべてのことを与えてくれるわけね。みんなあなたがもたらしたことなのね、生も死も」
彼女は嘲るように呟いた。
「そうだ。私がそうするんだ」
「あなたって何もわかってないのね」
彼女は重々しく言った。その声は通りの微かな物音にもかき消されるほど低かった。(中略)
「あなたを作り上げた恩人のヴァンパイアさんも何もわかってない方だったようね。そのヴァンパイアさんを作ったヴァンパイアさんも何もわかっていなかった。そのまた前のヴァンパイアさんも何もわかってない、その前も、そのまた前も同じ。何もないところから何かが出てくることはないんですものね。いくらさかのぼっても何も出てこないわ! そこで私たちとしても、何の知識もないという知識をたのみに生きてゆかなくてはならないんだわ」
「そうとも!」
だしぬけに彼が叫んだ。両手を突き出している。声には単なる怒りを通り越したひびきがあった。
彼は沈黙した。彼はゆっくりと体をまわした。まるで僕が彼の警戒を招くような素振りをしたかのようだった。別に彼の背後に迫っているわけでもないのにね。彼のその仕草は、僕が人間たちを襲うとき、彼らが僕の息を感じて振り返りながら、まわりにはまったく誰もいなかったはずだということに気づくときの仕草を思い出させた……僕の顔や喘ぎに気づく前の恐ろしい疑惑の一瞬さ。彼は今、僕をじっと見ている。唇が震えているのが、はっきりわかった。怖がっているんだ。レスタトが怖がるとはね。(p.193-196)

クロウディアに「余計なことは考えるな。不老不死の命に感謝しろ」と言い聞かせていたと思ったら、突然ルイに向かって「お前は死を望んでいるのか」と問いかけるレスタト。
確かに、ちょっと話の意図がわかりにくい部分ですね。
私は原作者ではないので本当の答えはわからないんですが……。でも、一つの可能性として、このシーンのレスタトは最初から、クロウディアだけでなく、ルイにも話しかけているのだと考えるとどうでしょうか。
上の引用部分ではルイが一言も喋らないのでわかりにくいのですが、レスタトは「揃いも揃って貪欲な奴らだ」「お前たちは有り難い贈り物にけちをつけている」と言っているので、そこには明らかにルイも含まれています。つまりこの喧嘩は、

レスタト VS クロウディア+ルイ

という構図で始まっているのですね(少なくともレスタトはそう見なしている)。

「あなたは喜んで飛びついたってわけ?」

このクロウディアの台詞は、「不老不死などという苦しみに安易に飛びつくものなどいるわけがない」という示唆でしょう。現に彼女はそのために苦しんでいるわけですから当然です。
それを受けたレスタトは一瞬黙り込みますが、言います。

「……でもお前は、お前ならそのわけを知ってるだろう。お前はそれを終わらせたいのか? 死を与えるのは、生を与えるよりずっと簡単なんだぞ!」

ここで、レスタトの台詞の対象は「お前たち」から「お前」という単数形に変わりました。まあ英語ではどちらも"You"と書かれていると思いますが、この台詞は明らかにルイ1人へ向けられたものです。
何故かというと、この3人の中で、ヴァンパイアになるかどうかを自分で選ぶことができたのはルイだけだからです。「自分の意思で不老不死を選ぶ人間の気持ちが、お前ならわかるはずだろう」という台詞の客体として成立するのはルイしかいません。
それを踏まえて、次に続く「お前は死を望んでいるのか?」の意味を考えてみると……

『お前は、後悔しているのか?』

とでも言い換えることができそうです。
ルイがヴァンパイアになることを選んだ理由――…はっきりとは語られてはいませんが、それは多分、レスタトと恋に落ちたが故でした。
レスタトはルイに、「たとえ不老不死に苦しみが伴うとしても、愛の為にそれを選び取る人間の気持ちがお前にはわかるはずだろう。それとも、まさか今はそれを後悔して死を望んでいるとでも言うのか?」と問いかけているのではないでしょうか。
しかし、彼のその問いかけに対しルイは口を開きませんでした。ここでクロウディアが「自覚することは死とは違う」と口を挟むのは、答えられないルイを庇っているようにも見えます。レスタトが「質問に答えろ!」と逆上しているのは、クロウディアではなくルイに対して、なのです。
ルイの台詞や心情描写が一言もなく、淡々と地の文を語っているだけなので、まるでルイは傍観者であったように見えてしまうのですが……実はクロウディアは間に挟まっているだけで、このシーンのメインはルイとレスタトなのだと思います。

そう捉えると、このシーンの最後でレスタトが怯えた目でルイを見つめていたというのも納得できるでしょう。
レスタトは、ルイを深く愛していました。そのルイが、後悔しているのかもしれない。かつて離れてしまいそうになった時、クロウディアを犠牲にしてまで繋ぎとめた愛しい恋人。でも、その効力ももはや切れかけている。
彼が何か一言でも口を開けば、それだけでレスタトは絶望の底へ落とされてしまう。彼はきっと、それを怖れていた。

クロウディアを鎹にして、60年以上を共に過ごしていた2人のバランスが少しずつ崩れ始めて、取り返しがつかないところにまでいってしまおうとしている。
そんな情景を描写した1シーンなのかな、と私は思いました。


なんか、うまく簡潔にまとめられなくて長くなってしまいましたが……これで私の萌が伝わるだろうか;
ここだけに限らずなんですけど、原作を読んでると「レスタト、すごいルイのこと好きだったんだな!」ってビックリするよね。いや、すごい好きなのは知ってたけど、そんなに!?みたいな(笑)
私も一応、同人屋の端くれではあるんですけど、なんかもう仕事ないよね。公式が最大手。

レスタト惨殺未遂事件のとこまでいけなかったけど、長くなり過ぎたので今回はこのへんで。
また次回!

拍手[5回]

――…そして、話は再び19世紀へ遡ります。

娘・クロウディアを迎えて、3人家族になったレスタトとルイ。彼らの生活はそれはそれは華々しく優雅で、満ち足りたものでした。

クロウディアは、わずか6年間に満たなかった人間としての生活のことなど、すぐに忘れてしまいました。彼女はまだ幼かったが故、ルイのように倫理的葛藤を覚えることもなく、人形で遊ぶのも同然の調子で平然と人を殺しました。
2人は、夢のように美しく無慈悲な悪魔となった小さな娘を、とても可愛がりました。上等な服を与えて着飾らせ、観劇に連れていったり。レスタトは夜ごと彼女を狩りに連れ出しては彼流の美学を教え込み、ルイはといえば倫理や文学、音楽、礼法など、人間の世界の教養を教え込もうとしました。しかし、レスタトもルイも、果たして彼女がそれをどのように感じているのか、どのように理解しているのかはわかっていませんでした。人間であった時間が極端に短く、情緒も未発達なままヴァンパイアとなったクロウディアは、ヴァンパイアとしての性質においてルイはおろかレスタトよりも生粋の存在です。そんな彼女が物事をどのように感じ、捉えているのかを知ることは2人には不可能だったのです。
とはいえ、ルイは概ね幸せでした。
レスタトとの間にある緊張感は完全になくなったわけではありませんでしたが、以前ほど致命的ではなくなりました。クロウディアを手にかけたことが、ルイの中で一つのきっかけになったのでしょう。ルイは人間の生き血を吸うことに対する抵抗感が薄れ、いつかレスタトが言ったような「ヴァンパイアらしさ」を持つようになったのです。かつてバベットを愛したような、人間が人間に向けるような愛ではなく、吸血欲と密接に絡まり合ったヴァンパイア的な愛情を、今ではルイも理解していました。吸血する姿をレスタトやクロウディアに見せることはどうしてもできなかったものの、ルイは多くの人間を殺すようになり、以前ほど鬱々と思い悩むこともなくなりました。

しかし、そんな日々が何年続いた頃でしょうか。クロウディアは少しずつ変化し始めます。


「彼女の体が!」
若者が言った。
「彼女は成長することがなかったんですね」
ヴァンパイアはうなずいた。
「永遠に悪魔の子どもでいる運命だった」
彼はさも不思議なことのようにそっと言った。
「僕が、死んだ時のまま若者でいるのとちょうど同じことさ。で、レスタトのことか?同じことさ。ただし、彼女の心は違う。(中略)
彼女は前よりもよく話をするようになった。それでも内省的な人柄だったし、僕の話に口を挟まずに何時間でも忍耐づよく耳を傾けることができたがね。だが、彼女の人形のような顔はだんだんわけ知りの大人の目を持つ顔になってきたし、おもちゃを無視したり、ある種の忍耐をなくすことで、どことなく無邪気さを失ったようだった。真珠をちりばめたレースの小さなナイトガウンを羽織って、しどけなく長椅子に横になっている彼女には、どことなく官能的なところがあったな。彼女は不気味で腕のいい男たらしに成長していたのさ。声は以前と変わりなく澄んで美しかったが、女らしい響きがあり、時にはぞっとするほど鋭い響きもあった。何日間かは、普段の彼女らしいしとやかさでいながら、だしぬけにレスタトに向かって、戦争についての彼の予言を嘲ったりするのさ。そうかと思えば、クリスタル・グラスで血を飲みながら、この家には本が一冊もないじゃないの、盗んででももっと手に入れるべきだわ、などと言い出す。(中略)
そんな時、僕はただもう呆気にとられていたな。彼女の気持ちは予測もできなければ、理解もできなかった。だが、彼女は僕の膝に坐り、僕の髪に指をからませ、僕の心臓の辺りに頭をもたせては、うたたねしてしまったりする。殺しが本や音楽なんかよりずっとまじめだと気づくまでは、あなたって決してあたしみたいに成長しないのよ、などとやさしくささやきながらね。「いつもいつも音楽ばかり……」彼女は囁く。「お人形さん、お人形さん」僕は呼びかける。ほんとうに彼女は人形だった。魔法の人形だ。笑い声、限りない知性、おまけにふっくらとした頬、花の蕾のような唇。「きみに着物を着させてくれ、髪をとかさせてくれ」僕は昔ながらの習慣でよく頼んだものだ。彼女がほほえみながら、しかもかすかにうるさそうな表情で僕を見守っているのに気付いていたんだがね。「お好きなように」彼女の真珠のボタンをとめようとかがむ僕の耳に息を吹き込みながら言うのさ。「今夜あたしと一緒に殺しをしてくれさえすればね。あなたって殺しをするところを決して見せてくれないのね、ルイ」(p.164-166)

このシーン、ルイとクロウディアの倒錯的な関係性が鮮明に表現されていて、ちょっと落ち着かない気分になります。もろに、幼い恋人の成長を受け入れられないロリコンの成人男性って感じですよね。私はルイのファンなんですけど、クロウディアも好きなんですけど、この2人の性的な関係性(人間でいうセックスとは違いますが、この物語のヴァンパイア設定に準じた場合、そう表現してもいいと思うんです)をあまり生々しく表現されると、若干の嫌悪感を禁じ得ません。いや、むしろルイのファンだから嫌なのかもしれない……。

まぁ、私の個人的な好き嫌いは置いとくとして。

今回、この部分を改めて読み返して、ルイはあくまでクロウディアの保護者でいるつもりなのですが、クロウディアはクロウディアで、ある部分ではルイを自分より未熟なものとして見ていたらしいというところが面白いなと思いました。

「殺しが本や音楽なんかよりずっとまじめだと気づくまでは、あなたって決してあたしみたいに成長しないのよ」

ヴァンパイアにとって、殺しは生きるために必要不可欠な営みです。音楽や本が、娯楽・嗜好品の類でしかないとすれば、殺しは確かに『本や音楽なんかよりずっとまじめ』だということになります。ようやく人の生き血を吸うことができるようになったルイですが、まだ完全には殺しの習慣に馴染めていないことを、クロウディアはいつの間にか見抜いていたんですね。レスタトや他のヴァンパイア(この時点ではまだ登場してないですが)たちは、ルイの中に残ったその『人間性の欠片』を彼の美点として評価したりするのですが、そもそも「人間性」がまったく無いクロウディアはその価値を理解できず、ルイをただ単に「ヴァンパイアとして未熟な存在」としか見なしていません。
そして、年上の女が年下の男に教えてやろうとするかのように「今夜あたしと一緒に殺しをして」と誘うわけです。「あなたもそろそろ一人前のヴァンパイアになりなさいよ」と。

ところで、彼女に「お人形さん、お人形さん」と話しかけるルイは、さも性的な欲望など感じていないかのように見えますが、ルイに服を着せ替えられながら「一緒に殺しをして」と誘うクロウディアの台詞には、明らかに男と女の含みを感じます。
実際、クロウディアはルイの娘であり恋人だったと言われているわけですが……実を言うと、この「娘であり恋人」という関係が、私にはいまいちイメージがつきません。娘と恋人って、両立する関係性なんだろうか。
少し似ているパターンとしては、ガブリエルとレスタトの「母子であり恋人」がありますが、この2人の場合も、「母子」関係と「恋人」関係は両立していなかったと思います。私の記憶が正しければ、ガブリエルがヴァンパイアになった場面で、レスタトが「彼女は母ではなく、ガブリエルだった」と述懐する箇所が ありますし、ガブリエルもレスタトを息子ではなく対等な男として扱うようになり、人間だった頃の母子関係は一度そこで終わったように描写されていたはずです。

こんな細かいことが気になるのはもしかしたら私だけかもしれませんが、クロウディアがルイの恋人だったとして、彼女がもう子どもではないことにルイも気づいていたとしたら、ルイが頑なに気づかないふりで彼女を子ども扱いし続ける理由って何なんだろう、と思ったんです。

この辺りの解釈については人によって結論が異なると思いますが――、
結局、ルイはクロウディアを本当に恋人として見たことは一度もなかったのかな、と私は思いました。
クロウディアは、成り行きでレスタトとルイの娘になり。幼女のまま大人になって、女の色香を振りまきながらルイを誘ったりするわけですが、彼は素知らぬふりで「可愛い可愛いお嬢さん、髪をとかさせておくれ」と言うだけ。
ルイが時折彼女に応えて恋人のように振舞うのは、父親が幼い娘の恋人ごっこに付き合ってやるのと同じようなものだったのかもしれません。もっと言うと、ルイは、自分とレスタトのせいで「本物の恋人」を得ることができなくなったクロウディアに対して責任を感じていて、恋人役を演じてやることが義務のように思っていたのかも。

あと、今回のブログ記事ではレスタトに関してはほとんど触れられませんでしたが、ルイとクロウディアのやり取りを、レスタトが時に間近で見ていたと思うと感慨深いものがあるな、と思いました。もとはといえば、クロウディアはレスタトがルイに「プレゼントした」ものと言っていいくらいだと思いますが、彼女が「子ども」だった時期はともかく、時と共にルイと彼女の間に男女関係的な要素が強くなっていったことに、レスタトだって気が付いていたはずです。
当初はレスタトもクロウディアをよく可愛がっていたという描写がありますが、クロウディアが無邪気なお人形ではなくなった時点で、2人の対立は避けられないことだったんだろうなと思いました。

ああでも、それでも、レスタトとクロウディアと過ごしたこの65年間が、おそらくルイの人生で一番幸せだった時代なんだろうなぁ…。

次回、3人の生活は崩壊に向かって動き始めます。

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