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梔子ゆきがヴァンパイア・クロニクルズの話をするために作ったブログ。偏見の混じった感想など。
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プロフィール
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梔子ゆき
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非公開
自己紹介:
腐女子歴がそろそろ人生の半分を越えた。
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クロウディアと出会った晩の夜明け。「話し合おう」と言ってくれたレスタトの言葉に大層期待して眠りについたルイですが、その話し合いとは果たしてどのようなものだったのでしょうか。

夜になってルイが目覚めると、レスタトはもう先に起きていて、部屋に連れ込んだ2人の娼婦と共に饗宴を開いていました。昨夜、静かに「話し合おう」と言ってくれた時の彼とはまるで別人のよう。
その饗宴の果てに、あえて残酷な演出を凝らして、散々恐怖を煽った上で娼婦たちを惨殺したレスタトの振る舞いに、ルイは強い怒りと疑問をぶつけます。
ヴァンパイアが人間を殺さなくては生きられないことを差し引いても、何故レスタトはそんな風に殺戮を楽しむことができるのか?
そんな風に被害者の恐怖心を煽ることに何の意味があるのかと尋ねたルイに、レスタトはただ「そうしたいからだ」と答えます。そして彼は同時に、ルイの苦悩の核心をも正確に指摘するのです。

「どうしてあんたはヴァンパイアになったのだ?」
僕はだしぬけに言った。
「しかも、何故そんなヴァンパイアなんだ! 必要もない時に、執念深く嬉しそうに人間の生命を奪うんだ……この娘だって、なぜ殺したんだ? 一人で充分だったんだろう。それに、なんで殺す前にあんなに驚かさなくてはならないんだ? おまけに、なぜこんなに不気味な恰好でもたせかけておくんだ? まるで神々にこの冒瀆の罪で打ち据えてくれ、と頼んでいるようなものだ」
彼は一言もさし挟まずに僕の言葉に耳を傾けていた。そうなると、その後、一息いれた時、僕の方が途方に暮れてしまった。レスタトは目を大きく見開いて、考え深げだった。(中略)
「ヴァンパイアとは何だと思う?」
彼は真心のこもった調子で尋ねた。
「僕は知ったかぶりはしない。あんたはさも知った風な顔をしているな。いったいヴァンパイアとは何なのだ?」
するとこれに対して彼は何も答えない。まるで僕の質問の不誠実さ、つまり意地の悪さをぴんと感じたようだった。(中略)
「おそらく、あんたと別れてから、僕はその答えを見つけるために一所懸命やってみるだろう。他のヴァンパイアを見つけるために、必要とあれば世界中を旅するだろう。いるに決まってるさ。ヴァンパイアが大勢いて悪いなんてわけがない。それに、あんたよりももっと僕に近いヴァンパイアをきっと見つけられるよ。知識というものを僕と同じ程度に理解し、ヴァンパイアの超自然的な特質を、あんたなど夢にも知らない奥儀を学ぶために役立てていた、そんなヴァンパイアがね。たとえあんたが全部教えてくれなくても、僕は自分ひとりで学ぶか、そういうヴァンパイアにめぐり合った時、彼らから教えてもらう」
「ルイ!」
彼は首を振った。
「おまえは自分の持っている人間の本性を愛してるんだよ!ヴァンパイアになる前の自分の幻影を追い求めているわけさ。フルニエール青年、その姉……こういうものは、昔のおまえや、今なおそうありたいと恋々としているものの概念に過ぎないんだ。そういった人間的な生活に夢中になるあまり、せっかくのヴァンパイアとしての特性が麻痺してるんだ!」
僕はすぐに意義を唱えた。
「僕はヴァンパイアの特質を得られたことを、人生最大の素晴らしい出来事だと思っている。(中略)ヴァンパイアになってその時、僕は生涯ではじめて、人生のあらゆるものを大切に思えるようになった、ヴァンパイアになるまでは、生きて鼓動している人間というものが全然わかっていなかったんだ。生命というものが何なのかも、それがどっと血になってこの唇やこの手に溢れ出すまで、全然わかっていなかったんだ!」
(中略)
「おまえはヴァンパイアの特質がのみこめてない。おまえは、子供時代を振り返っては、その良さを全然味わえなかったと思ってる大人みたいなもんだ。大人になったら、子供部屋に戻っておもちゃで遊ぶなんて真似はできないし、あらためてその価値がわかったからというだけの理由で愛情を求めたり、愛が降り注いでいるのが好きだ、なんてわけにはいかないんだ。おまえと人間性の関係も同じことだ」(p.129-132)

……そ、

そ、そうだったのかぁあああ―――!!!!!

って、感じしますよね(笑)
ここのレスタトの台詞は、本当にこれ以上ないというくらい核心を突いています。ここまで130ページもかけてルイがウジウジ思い悩んでいた、漠然とした悩みの本質が、わずか7行の台詞に全てまとめられてる。ついでに言うたら、『子供時代を振り返ってはその良さを全然味わえなかったと思ってる大人みたいなもん』っていう、この例え話も完璧じゃね? めっちゃわかりやすい! 私、ここまできてようやくこの本のテーマがわかったような気がしてる!
ルイは、この本でレスタトのことを「彼の耳は、素晴らしいものは何も生み出しはしない雌豚の耳」「うんざりするような奴、詰まらない惨めな奴」などと酷評していますが、とんでもないよね。レスタトは、まぁ確かに思慮は浅いし倫理観がちょっとアレだし本質的にクズなんだけど、勇敢で行動力があって、適応力も高いし、直感の鋭さはものすごいあるキャラで、決して『中身が無い馬鹿』というわけではないんだよ!(←褒めています) ルイとは違って、あれこれ慎重に思案するタイプではないけど、時にシンプルな思考と直感が最短距離で答えに辿り着くっていうことを体現してるようなキャラだなぁとよく思います。まぁ、本当に馬鹿すぎて取り返しのつかない過ちを犯すこともよくあるけど…まぁそのへんは続刊の感想でツッコむことにしよう(笑)

ちょっと話が逸れましたが、そんな感じでまだまだ続く2人の話し合い。
レスタトに図星を突かれつつも、ルイは果敢に言い返します。

「そんなことはわかってる! だが、われわれの特性なんて何になる! もし動物の血で生きていけるのなら、人間たちに死や災難をもたらしながら生きていく代わりに、動物の血で生きていって何がわるい!」(p.132)

至極もっともな意見。そうだよ。ルイが動物の血だけで生きていくのはべつに個人の自由だものな。
しかし、それに対しこの後レスタトが言い返した内容が、個人的にはまたものすごい衝撃的でした。

「それでおまえは幸せになれるのか? 乞食みたいにネズミで餓えをしのぎながら夜にうろつきまわり、バベットの家の窓をぼけーっと眺めては気がかりで胸がいっぱいになり、そのくせ何にもできやしないんだ。眠っているエンデュミオンを毎夜眺めるくせに、自分のものにできなかった月の女神と同じさ。もしおまえが彼女を腕の中に抱きしめることができ、彼女も怖がりもしないでおまえを見上げたとしよう、それからどうするっていうんだ。彼女が死ぬべき人間としてのあらゆる苦労に耐え、やがて死んでゆくのを、ほんの短いあいだその目で見守ってやるというのか? こんなことで幸福になれるのか? 気ちがい沙汰だよ、ルイ。無駄だね。(中略)請け合ってもいいが、今夜街を歩いて、バベットくらい栄養があって美しい女を殺し、おまえの足元にくたくたっと倒れるまで、その血を吸ってみろ。そうすれば、ローソクに照らし出されたバベットの影にあこがれるどころか、せめて声でも聞きたいと窓の下に立っているような憧れはきれいさっぱりなくなるだろう。満たされるんだよ、ルイ。つまり、人生を充分やっていけるだけのものでな」(p.132-133)

こわい。
ここのレスタトの台詞、きっと人それぞれ色々な捉え方があるでしょうが、私は正直、「ちょっと怖い」と思いました。
『僕は人を殺さずに、動物の血だけ啜って生きていきたいんだよ!』
『そんなのお前が幸せになれないから許さない!』
言っていることは一見もっともらしいし、彼なりの愛情の表れであるのは確かなので、萌えることは萌えるんだけど、でも怖い。

だってこれって、ものすごい強烈なモラハラですよね?

たとえば目の前にベジタリアンの人がいたとして、その人が動物性タンパク質を食べない生き方を選ぶことは個人の自由だし、権利だと思うんです。たとえ、栄養素が偏ることによる健康問題が待ち受けているとしてもですよ、「そんなことでお前は幸福になれない」とか「無駄だね」とか、他人が言う筋合いは無いんじゃないでしょうか。

レスタトとルイのやり取りにしても、レスタトは何も、ルイの望む生き方まで否定する必要は無かった――というか、そんな権利は無いはずです。しかも、レスタトは「人間に恋をして、その人生を見守るなんてことは無駄だ」と言っていますが、それがレスタトの本心だとも私にはちょっと思えません。確かに、それ自体は生産的な行為ではないかもしれませんが、レスタトはそういう情緒を理解しないキャラクターではないと思うのです。
それならば一体何がレスタトをそこまで駆り立てたのかといえば、それは、ここぞとばかりにバベットとの関係性をこき下ろしている点に答えが現れているのかな、と。
つまるところ、この台詞には実はレスタトの愛というよりも、むしろ嫉妬心が色濃く表れているのではないでしょうか。

この本では、レスタトとルイはただの生活共同体だったことになっていますが、『仮に』2人が恋人同士だったとすると、レスタトがバベットの名前を出したのはルイに対するかなり直接的な非難であることになります。いわば、「お前の浮気を俺が知らないとでも思ってたのか」とでも言ったところですか。
レスタトはきっと、「バベットの家の窓をぼけーっと眺めては気がかりで胸がいっぱいに」なっているルイの横顔をずっと見ていたんでしょう。そしてそんなルイが、バベットが、嫌いで嫌いで仕方なかったに違いありません。
「幸せになんかなれるわけない!」と喚きながら、ルイを月の女神になぞらえるレスタトの愛が痛い。

そして、瀕死の娼婦にこれ見よがしにとどめを刺しながらレスタトは言うのです。

「おまえが一生の間、毎晩この行為ができるようになれたら、その時にこそ平和が訪れるものなんだ。他にはどんな方法もない。そう、これが全てなのさ」
彼の声はやさしいと言ってもいいほどだったな。(中略)
「さあ、一緒に来いよ、街に出よう。世も更けた。まだ飲み足りないだろう。おまえの正体がどんなものか教えてやろう。ほんとさ! しくじったら赦してくれ、さあ、来いよ!」
「もう耐えられない、レスタト。あんたは仲間を選びまちがえてる」
僕は言った。
「だがな、ルイ」
彼は言うんだ。
「おまえはやってみてもいないじゃないか」(p.139-140)

凄まじい泥沼。
正直、レスタトが本当にルイを幸せにしたいと思うのであれば、物分りよく別れてやるべきだったんだと思います。お互いの生き方を受け入れて、認め合うことができないのだとわかった時に。
しかし、レスタトはその選択をすることができませんでした。
『同じ人間だから』という理由で誰もがわかり合えるわけではないように、『同じヴァンパイアだから』という理由で一緒に生きられるわけではないという現実を、レスタトもとっくにわかっていたはずなんですがね。
好きだったんですねぇ、ルイのことが。

その後、2人は連れ立って街へ出ます。ルイは、一連の言い合いですっかり気力が萎えてしまい、レスタトに引きずられるまま。
たどり着いた先は、みすぼらしい病院でした。そこには疫病や熱病に倒れた子どもたちが大量に収容されており、その中には、昨夜ルイが血を吸ったあの少女もいました。少女は、まだ生きていたのです。
ルイがわけもわからずにいるうちに、レスタトは病院の職員に話をつけ、父親のふりをして彼女を連れ出します。そして少女をホテルの部屋に連れ帰ると、レスタトはルイを唆して再び彼女の血を吸わせた後、彼女に自分の血を飲ませてしまいました。
そう。

6歳にも満たない少女クロウディアを、ヴァンパイアにしてしまったのです。

「ママはどこ?」
女の子がそっとたずねた。彼女は見かけと同じように美しい声をしていた。小さな銀の鈴のように澄んでたな。(中略)
その時レスタトが立ち上がって床から彼女をすくいあげ、僕の方へやってきた。
「私たちの娘だ」
彼は言った。
「さあ、これでお前は私たちと一緒に暮らすことになるんだ」
そう言って彼女ににっこりしてみせた。だがその目は冷たかった。まるでこんなことはみんな冗談さ、と言っているも同然だったな。それから次に僕を見た。しかも確信ありげな顔でね。(中略)
「これがルイ。私はレスタト」
彼女の隣に腰をおろしながら、彼は言った。彼女はあたりを見まわして、きれいなお部屋ね、とってもきれい、でもママがいない、と言った。彼は櫛をとり出して、彼女の髪を梳いていた。櫛で引っ張らないように、もつれたところは手でつまんだりしてね。彼女の髪はもつれもとれ、繻子のようにつややかになった。僕が見たなかで一番美しい子どもだったな。それにしても、彼女はもうヴァンパイア特有の冷たい火で燃えていた。目は大人の女の目だった。(中略)
「ママがきみを私たちのところに置いていったんだよ。幸せになるように、ってね」
彼は相変わらず計り知れない大胆さで彼女に言って聞かせているところだった。
「ママは、私たちならきみをとっても幸せにできるって知ってるのさ」
(中略)
「さて、ルイは私たちからさよならするとこだったんだ」
レスタトは僕の顔から彼女の顔へと視線を移しながら言ったものだ。
「彼はどこかへ行ってしまうところだったんだよ。でも、もうやめたんだ。なぜって、ここに残って、きみの世話をして、幸せにしてやりたいんだってさ」
彼は僕を見た。
「行かないんだろう、な、ルイ?」
「なんて奴だ!」
僕は小声で言った。
「悪魔め!」
「自分の娘の前で、たいした言葉を使うじゃないか」
彼は言った。
「あたし、あなたの娘じゃなくてよ」
彼女は銀の鈴のような声で言った。
「ママの娘よ」
「ちがうんだ、いい子ちゃん、そうじゃないんだよ」
彼はちらりと窓を眺めてから僕たちの背後の寝室のドアを閉め、錠の鍵をまわした。
「きみは私たちの娘なんだよ。ルイの娘で、私の娘。わかった? さあて、誰と一緒にねんねさせたらいいかな。ルイ、それとも私かな?」
そう言うと、今度は僕を眺めながら言った。
「たぶんルイと寝るのがいいな。疲れてると私は……あんまり優しくもないしなあ」(p.150-152)

たぶん、この本の中で1、2を争う胸糞シーンですね。
「ゴシック小説である」という前提に立って、むしろこれは褒めているのですが、誘拐してきた少女に「お前は俺たちの娘だよ」と言い聞かせているレスタトのおぞましさは他の追随を許しません。

それにしても、クロウディアというのは本当につくづく可哀想なキャラクターだなと思います。
レスタトもルイも、後に出てくる他のヴァンパイアたちも、経緯はどうあれ、「選ばれた存在」なのだと思うんです。主人たるヴァンパイアに愛され、「伴侶に」と望まれてヴァンパイアになった。
でも、クロウディアはそうじゃなかったんですね。
彼女はこの後幸福とは言い難い人生を送り、悲惨な最期を遂げることになりますが、彼女の不幸は「子どものうちにヴァンパイアになってしまった」ことだけではなく、「誰からも愛されていなかった」という点にも原因があるんじゃないかと思いました。
ここから先の展開ではルイのクロウディアへの愛情がクローズアップされる形になるので誤魔化されがちですが、ここまでの経緯を見る限り、ルイだって彼女を愛していたとは言えない気がします。というのも、後述しますが、ルイのクロウディアへの愛情だって、結局は「レスタトとの間に作った娘だから」という側面が多分にあった疑いが強いのです。

レスタトとルイは、クロウディアをヴァンパイアにした後、一緒に暮らしていく中で彼女に愛着は持ったかもしれないけれど、「愛したからヴァンパイアにした」わけではなかったので、その後クロウディアが物心ついて「私はなぜヴァンパイアになったの?」と訊いてきた時に答えてやることができませんでした。
もしも、レスタトかルイが愛ゆえにクロウディアを本心から求めて、その結果ヴァンパイアになったのだとしたら、その愛が、ある程度クロウディアの自己肯定感に繋がった可能性はあったと思います。子どもの肉体は永遠に変えられないとしても、です。
ついでに言ってしまえば、もしクロウディアが本当に愛されていたとしたら、それこそ大人になるまで待ってもらえたはずなのですよね。

第2巻で、「子どもをヴァンパイアにしてはならない」「仲間をつくる時には必ず愛を以ってしろ」と話したマリウスの言葉が一層重みを持って思い出されます。
レスタトを戒めるに至らなかったことは本当に残念ですが、そういう自由な悪徳、独特の倫理観と気まぐれな慈善心がレスタトの魅力だとも思うから、ほんと、ほんと……何とも言えないけど、とりあえずレスタトはクズ。

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何とか無事にフルニエール家を脱したレスタトとルイは、その夜のうちにニューオーリンズへと辿り着き、ホテルに部屋をとりました。
当時、1795年頃のニューオーリンズはまさに人種の坩堝。植民支配側のヨーロッパ系移民と黒人奴隷、ひっきりなしに出入りする貿易船の船乗り、そしてインディアン。ありとあらゆる人種と階級の人間が入り混じりながら、急速に発展する過程にありました。
混沌として華やかに栄えるこの街で、2人は雑多な群衆の中に紛れるように暮らし始めます。しかし当然のことながら、2人の間の溝は依然根深く埋まらないまま。というより、フルニエールの酒蔵で全てをぶつけ合ってしまった彼らは最早、破局の危機にありました。

もしかしたら、何かほんの些細なきっかけさえあったなら、2人はそのまま別れていたのかもしれません。
しかし、そうはなりませんでした。
そう。レスルイを語る上で決して避けては通れない、クロウディアとの出会い。彼女の登場は、2人の行く末を劇的に変えるターニングポイントとなりました。このブログを読んでいる人(いるのか?)の中で、この期に及んで彼女を知らない人はおそらくいないでしょうね。
何ていうのかな……この出来事に関して個人的に語りたいことは山ほどあるんですけど、ありすぎて何から語れば良いのか全然わかりません。なんかもう全然まとまりの無いブログ記事になってしまう予感がぷんぷんするのですが、何はともあれ、まずは原作に描かれた経緯を順に振り返ってみましょう。


ホテルに辿り着いた時、2人はどちらも空腹に耐えかねていましたが、仲違いしていたので、レスタトは1人でさっさと先に狩りへ出かけてしまいました。
ルイは、ヴァンパイアとして生きることに対する苦悩や、レスタトと別れることについての迷いをまだ引き摺っていて、どうにも憂鬱な気分でした。しかし、精神的な苦しみがそうさせるのか、その時ルイの中にはそれまでよりもずっと強い、殺しへの欲望が芽生えていました。ヴァンパイアにとっての『殺し/食事』は、人間の生活の中では例えるものも無いほどの快楽をもたらします。

満たされない心の不穏を、何もかもどうでも良くなる程の強烈な快感で吹き飛ばしたい。

その時ルイの心身を支配していたのは、そんな本能に近い感情だったのかもしれません。
しかし、それはそう簡単なことではありませんでした。ルイはそれまで人間の生き血を拒絶して生きてきましたが、動物などという代替的な食物ではそこまでの快楽を得ることはできないからです。
ルイがその生理的な欲望を満たすためには、人間を殺すより他はありませんでした。

ルイは、自分の中にある殺しへの欲望を自覚しては自らを「悪魔そのものだ」と思い、そんな自分自身を嫌悪する気持ちを見つけては「殺しを嫌悪している自分は本当に悪魔なのだろうか」と考えたりしながら、独り鬱々と夜の街を彷徨い歩きました。
そんな時のことです。

ルイの耳に、小さな女の子の泣き声が聞こえてきたのは。

その声は、一軒の家の中から聞こえていました。薄暗いその家の中で、女の子は、疫病で死んだ母親の死体に取りすがって泣いていました。まだ6歳にも満たないと思われるその女の子は、母親の死を理解することすらできない様子で、ルイの姿を見ると「たすけて。ペストが来る前にお母さんとお船に乗るの。お父さんが待っているの」と、泣いて縋ってきました。

ルイは心底哀れに思ってその子を抱き上げましたが、その瞬間彼の脳裏によみがえったのは、ランタンを投げつけてきたバベットの憎しみに歪んだ顔でした。

人間を愛する心、孤独な子どもを哀れに想う気持ちを捨て去ることはできなくても、彼が人間を喰い物にする化け物であることは変えられない現実です。ルイは、終わらない苦悩を抱えながら人間を殺して生きるこの人生こそ、呪われた地獄なのだと理解しました。

気が付くと、ルイは腕の中の少女の首に深く牙を刺し込んでいました。

4年ぶりの人間の血の味は、ルイに口もきけなくなる程の愉悦をもたらしました。しかし、ふと母親の死体と目があった瞬間、ルイは思わず我に返り子どもを放り出しました。そして、そんな彼の姿を、レスタトが窓の外から覗き見ていたことに気づいてしまうのです。

レスタトは、有頂天になってルイを囃し立てます。

「子どもは生きてるぞ、ルイ。まだ息があったぞ。私が戻ってあの子をヴァンパイアにしちまおうか? ものになるんじゃないか、ルイ。それに、あの子買ってやれる、ありったけのきれいな服のことも考えてみろ。ルイ。待て、ルイ! そう言ってくれれば、私があの子のところに戻ってやるぞ!」
ホテルに戻る間じゅう、彼はそう言いながら僕を追いかけてきた。
(中略)
僕は怒りの頂点に達していた。それで、彼が割れたガラスの間を抜けてはいってきた時、かつてないほど凄まじい格闘が始まった。その格闘を途中でやめたのは、地獄のことを考えたからだ。怨みあい、取っ組み合っている地獄の二つの魂と化した僕たちのことを思い浮かべたからだった。自信も、目的も、彼をつかんでいた手の力もなくしてしまったね。
僕は床に座り込み、彼は前に立ちはだかった。彼の胸は苦しげに揺れていたが、その眼差しは冷たかった。
「お前は馬鹿だ、ルイ」
そう言った彼の声は落ち着いていた。あまりに落ち着いていたので僕は思わず引きこまれそうになってしまった。
「陽が昇り始めてるぞ」
格闘のせいで彼の胸は少し波打っていた。目を細めて窓を眺めている。こんなに静かな彼は初めてだった。格闘が何らかの意味で彼をまいらせたんだ、いや、それとも他の何かが。
「お前の棺に入って寝ろ。だが明日の晩に……話し合おう」
そう言う彼の様子には怒りの気配すら見えなかった。
(p.120-122)


……はい。
ちょっと中途半端ではあるんですが、クロウディア“誕生”編の前半戦ということで、ここで一区切りとさせていただきます。

先のネタ晴らしをしてしまうと(このブログに『ネタバレ』という概念はありません、悪しからず)、クロウディアはこの後レスタトとルイの娘として迎えられ、ルイの愛情を一身に受けることになるわけですが…。
こうして読み返してみると、出会いの時点で、ルイがクロウディア個人に特に思い入れを持った描写って意外と無いんですね。なんかもっと、最初からクロウディアの魅力に惹かれて彼女に欲望を抱いたようなイメージがあったんですけど、忠実に原作を読み解いていくと、ルイの衝動はあくまでも自分のアイデンティティに関する葛藤から生まれたものであって、クロウディアはたまたまそこに居ただけ、という感じ。もちろん、「偶然という名の運命」と言うならそれはそうだと思うのですが、クロウディアはルイが「選んだ」というよりも、ルイがたまたま血を吸ったことによって彼にとって特別な存在になっていったんだろうなと感じました。
まぁ、内省的で鬱々としたアイデンティティの持ち主であるルイの『欲望』が成人の男女ではなく、明らかな弱者――幼女へ向かったことには多少の必然性があるかもしれませんが、私はルイのファンなので、ルイが、自分より弱い幼女にしか欲情できない鬱屈したロリコン野郎だなんて言いません!言いませんよ!!
いやぁ、だって…創作上のロリコンにしたって6歳はアカンだろ、6歳は。

あと、これはこの先の展開で一層顕著になる点ですが。
ルイは、いつもは破天荒で落ち着きのないレスタトがふと冷静になったり、思慮深い様子を見せたりすると、どんな酷い喧嘩の真っ最中でも途端に魅了されてしまうのですね。上記に引用した「あまりに落ち着いていたので思わず引き込まれそうになってしまった」っていう文章とか、そう言ってる時点でもう引き込まれてるよね?みたいな。
原作のごく最初の方にも、「彼の仕草があまりにも紳士的だったので、恋人のような気がしてしまった」というような文章があったりして、似たような言い回しは随所にあると思うんだけど…。
この本の中で、ルイはレスタトのことを「嫌いだった」って頑なに言い張ってるんですけど、実はメロメロラブラブだったの全然隠せてないし、これインタビュー聞いてるダニエルにだってバレバレだっただろうと思うんだけど、そのへんを一切追及しないダニエルってなんて優しいんだろうとか…思いません?(私は思います)
そういうとこを見てると、本当にこの本ってルイが

「バカ!バカ!僕をヴァンパイアにして永遠の命を与えたのは君なのに、僕を独り遺して死んじゃうなんて最低だよ!もう本当に大っ嫌いなんだから!」

って愚痴るに終始する小説なんだなってつくづく思うよね。
もちろん大歓迎ですもっと愚痴って下さい!

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レスタトの父親を殺した後、二人はポワント・デュ・ラック(ルイが経営していた農園)の屋敷を焼き払い、逃亡の旅に出ます。ルイが殺したリオンクール侯爵の死体(書き忘れましたがレスタトの父親のことです)や、レスタトが殺戮した奴隷たちの死体はもはや隠しようがなく、ルイがそれ以上そこで人間のふりを続けて財産を管理していくことは不可能でした。それに、人間社会の中で正体を隠して生活することにルイ自身も疲れ果ててしまっていたのです。
この火事で、ついに人間としてのルイは公式に死亡しました。

逃亡するといっても、二人はヴァンパイア。夜明けまでもう時間が無いとなれば、それほど遠くまでは行けません。
そこでルイが頼った先は、すぐ隣の土地で農園を経営していた同業者、フルニエール家の女主人でした。

バベットという名のその人は、女の身で立派に農園を切り盛りできる程の器量があり、精神的にも成熟した聡明な女性でした。ついでに言っておくと、彼女はさかのぼること数年前、弟をレスタトに殺されたがために女だてらに家業を背負わざるをえなくなり、その結果社会から白い眼で見られるようになってしまった、という気の毒な境遇の人です(女が社会的な仕事を得ること自体に否定的だった時代の話なので)。
かねてから彼女に淡い恋心を抱いていたルイは、ヴァンパイアとなって以降も、たびたび正体を隠して彼女を助け、陰ながら励ましていました。バベットは姿こそ見ていないながらも恩人の存在は認識していて、ルイのことを「天使」だと信じていました。いわば、「オペラ座の怪人」に出てくるファントムとクリスティーンのような関係だったわけです。

ルイとレスタトがポワント・デュ・ラックを焼き捨てた当時、彼女は既に他の男と結婚していましたが、ルイは、自分に恩のあるバベットであれば、一日くらいは匿ってくれるはずだと考え、レスタトを連れてフルニエール家へ身を寄せようとしたのです。

ところが、ここでもルイとレスタトの意見は激しくぶつかり合います。
二人はここに至るまでも散々喧嘩していますが、この時交わした売り言葉に買い言葉は、かなり決定的な内容でした。

レスタトは、フルニエール家へ潜伏することには賛成していましたが、「フルニエール家の家人を傷つけるべきではない」というルイの意見には反対でした。フルニエールへ逃げると決めた時から、レスタトは一家を皆殺しにするつもりでした。べつに恨みはありませんが、邪魔なので。

「そんなことをしてどんな平和がもたらされるというんだ」
僕はたずねた。
「あんたは僕のことを馬鹿よばわりするけど、あんたこそずっと馬鹿だったのだ。あんたがなぜ僕をヴァンパイアに仕立て上げたか、僕が気づいていないとでも思ってるのか? あんたは一人では生きていけなかったんだ。簡単なことさえどうすることもできなかったんだ。これまで何年間も、あんたがえらそうに坐ってる間、僕が何から何まで処理してきたんだ。あんたは、生きていく上で伝授できることはもうなにもない。僕はもうあんたは要らないし、相手にするつもりもない。あんたの方こそ僕がいないと困るんだ。だから、もしフルニエールの奴隷の一人にでも手をつけたら、あんたを追い出すぞ。二人の間の戦争だ。言って聞かすまでもないが、暮らしをたてるには僕の方がずっとすぐれているんだ、あんたの体全体かかっても僕のこの指一本にも敵わないほどにな。僕の言う通りにするんだ」
そうとも、彼はぎょっとしたよ。何もそんなに驚くにはあたらないのに。そして彼は抗議した。まだまだ教えることがたくさんある、たとえば、僕が殺してしまうと突然の死を自らにもたらすかもしれないものや人々のタイプ、決して行ってはならぬ世界のいろいろな地域云々、と我慢できないようなたわごとを並べ立てた。だが彼にかかわっているひまはなかった。フルニエール家の奴隷監督の小舎にあかりがともった。彼は逃げてきた奴隷と彼の配下の奴隷の間の騒ぎを鎮めようとしていたのだ。(p.97-98)

バベットは、突然やってきた奇怪な訪問者に大層驚きました。そして、彼らが普通の人間でないことにも薄々気が付きましたが、ルイに乞われると、葡萄酒を保存している食料貯蔵庫の鍵を二人に貸してやりました。
そして二人は内側から扉を塞ぎ、そこで1日を凌ぐことができましたが、翌晩目覚めると、外側からも閉じ込められていることに気が付きます。
そこに至って、ルイに脅されて皆殺しを思いとどまっていたレスタトの怒りは爆発しました。

「私は父が生きている間だけ、おまえが必要だったんだ」
どこか抜け穴でもないかと必死に探しまわった挙句、彼は言った。
「もう我慢するつもりはないぞ。いいな」
彼は僕に背を向けようともしなかった。僕は階上から人の声が聞こえないかと、体をこわばらせて坐っていた。せめて黙っていてくれればいいのにと思ったが、バベットに託している希望はもちろん、抱いている気持ちだって彼に打ち明けようとは一瞬たりとも思わなかった。
(中略)
レスタトが煉瓦の壁沿いに手で触ってまわるのが目にはいった。その厳しく我慢強いヴァンパイアの表情は、挫折感で歪んだ人間の顔のようだった。今すぐにも彼と訣別しなくては、もし必要とあらば海を隔てて別れなくては、そう僕は固く心に誓った。するとその時、長いあいだ彼を我慢してきたのは僕に自信がなかったからだ、と気づいた。(中略)レスタトと一緒に過ごしたというのも、僕ひとりでは見つけることのできない、ヴァンパイアとしての本質的な秘密を彼が知っているのではないだろうかと思っていたからだった。彼は僕が知っている唯一のヴァンパイアだったからね。彼はヴァンパイアになったいきさつも、どこに行けば同類を一人でも見つけられるかも、決して明かそうとしなかった。このことが僕を大いに悩ませていた、実に四年間もね。僕は彼に愛想がつき、彼のもとを離れたいと思った。でも、そんなことができるだろうか?
こういったことが僕の心に浮かんでは消えている間、レスタトは痛烈な罵詈雑言を浴びせつづけた。おまえなんか必要ない。もう我慢するつもりはないぞ、特にフルニエール家の脅しなんかにはな。(中略)ついに彼は言った。
「いいか! (中略)  こんなときに感傷的になるな! おまえって奴は何もかも台無しにする」
「あんたはこれから一人立ちして暮らしたいのか」
僕は彼にたずねた。彼の口からそれを言わせたかったんだ、僕には勇気がなかった。というより、自分でも自分の気持ちがはっきりしなかったんだ。
「私はニューオーリンズに行きたいんだ! おまえなんか必要ないって言ったのは、ちょっと脅してみただけさ。だがここを脱け出すにはお互いが必要だ。お前はまだ、どうやって自分の力を使ったらいいかわかっていない。生まれながらのヴァンパイアの感覚を持っているわけじゃないんだ。あの女がやってきたらうまく説得しろ。だがもし他の奴らを引き連れてきたらヴァンパイアらしく振舞う覚悟をしとけ!(中略)殺る覚悟を!」(p.100-103)

……このへんのやり取りを読んでいるとさ、ルイ視点の文章なのに、レスタトの心情描写なんて一文字も入ってないのに、レスタトの心がガンガンえぐられていくのが目に見えるような気がするよね。2巻で、レスタトがどれだけルイを愛していたか知ってから読み返すと、特に。めちゃめちゃ胸が痛い。

だからこのシーン好きなんだけどね!(笑顔)

たぶんレスタトはこの時まで、自分とルイは相思相愛の恋人だと信じていたんだと思います。たとえ気持ちの強さに差があったとしても、これほどとは思っていなかったんじゃないでしょうか。
ルイにこんな風に言われては、レスタトだって「財産目当てなんかじゃない。愛してる」なんてとても言えなかっただろうな。4年間も溺愛してきて、ある程度はわかり合えていると思ってたのに、相手は自分をただのヒモだとしか思ってなかったなんて惨めすぎるじゃん。自分が馬鹿みたいで、可哀想すぎるじゃん。
「ばか!俺だってお前なんか要らないよ!いなくたって生きていけるよ!」って、言うしかなかったんだろうな。
ルイに「おまえなんかいらない」って言われた翌晩、「俺だって親父のことさえ無きゃおまえなんか!」って言い返してるのは明らかに意趣返しでしかないんだけど、ルイに「よし、別れたいんだな?」って普通に聞き返されちゃったから、「そうじゃなくて、早くここを出たいだけだよ。ちょっと脅かしただけだよ」って慌てて打ち消して。「捨てちゃうからな!」なんて、ルイに対しては既に脅しとしては成り立ってないのに、そんなことにも気づかないふりをするレスタトが哀れです。

やがて、そんな二人の前にバベットが現れます。
彼女は、おそらく奴隷たちの話を聞いたのでしょう。珍客が隣の農園から逃げ出してきた化け物だと――かつてポワント・デュ・ラックの主人だったモノであることも知っていました。
恐慌状態に陥り混乱している彼女に、ルイはつとめて冷静に、逃走用の馬車を用意してくれるように頼みます。危害を加えるつもりはない、と訴えかけるルイの隣で、レスタトはもちろん殺る気満々。
攻撃態勢に入ったレスタトでしたが、ルイが「自分がバベットと話をするから、その間に馬と馬車を確保して来い」と指示すると、渋々彼の言う通りにしてやりました。
バベットと二人きりになったルイは、「悪魔」と罵られながらも、バベットに理解を求めました。自分は悪魔などではないこと。その証拠に、今まで何度も彼女を助けてきたこと。彼女に対して偽りを述べたことは一度もないこと。
しかし、ルイの言葉は彼女には届きませんでした。火を灯したランタンを投げつけられ、一瞬のうちに炎に包みこまれるルイ。駆けつけたレスタトによって消火され、ルイは命に別状はありませんでしたが、ルイに火をつけたバベットをレスタトは許しませんでした。
すかさず彼女に襲いかかるレスタト。しかし息の根をとめられる寸でのところで、ルイが彼女を救いました。
そして二人は茫然自失する彼女を残して馬車を駆り、ニューオーリンズへと逃げ延びていきました。

ところで、一日閉じ込められた密室の中で「もう別れる」だの何のと一通り言い合った二人。
口では「おまえなんかいらない」と言ったレスタトでしたが、彼は本当は死んでもルイと離れたくありませんでした。
「ここを出るためにはお互いの力が必要だ」と言ってとりあえず別れを引き延ばすことに成功した彼は、逃げおおせた後も彼を繋ぎ止めておく方法をずっと考えていたことでしょう。
そしてレスタトはこの後、ルイを繋ぎ止めたい一心で、自分の命を犠牲にしたといっても過言ではない大罪に手を染めるのです。

いやはや。
こうして改めてストーリーを読み解いて、キャラクターの心理に目を向けてみると、レスタトのルイに対する愛の半端ない重さには度肝を抜かれますな!
実際のところ、この『夜明けのヴァンパイア』を読んだだけでは、レスタトとルイの関係性はハッキリしない部分があります。語り手であるルイ自身がレスタトへの好意を認めておらず、二人が性的接触をしたという明確な記述が乏しいからです。
しかし、レスタトがルイを「愛しい恋人」「唯一無二の伴侶」と想って大切にしていたことは、第2巻で彼本人の口から語られる事実です。なんと驚いたことに!梔子の妄想ではないのです。(もちろん、この記事の中には私個人の主観も含まれてはおりますが)
私は、初めてこの本を読んだ時には、この場面に関して別にどうとも思わなかったのですが、ルイに対するレスタトの恋愛感情を知った上で読み返した時、「良いシーンを書いたな~!!」としみじみ思いました。

『夜明けのヴァンパイア』感想と銘打っておきながら、こんな風に「2巻では~」とやたら言うのはどうかと自分でも思うのですが、私が考えるに、結局『夜明けのヴァンパイア』はこれ1冊では成り立っていない本なんですね。
どういうことかというと、この1冊から得られる情報量だけだと、物事の因果関係とか、キャラクターの行動の動機が説明できないケースがわりとあるんです。
その最たる例は、クロウディアですが…この点に関しては、彼女の登場場面の解説で語った方が良さそうです。
多分、世の中の大体の人は、この本を「読みにくい」と感じるでしょう。その理由は文章自体のくどさとか、内容の宗教的・哲学的要素のためだと説明されがちですが、私は少し違うんじゃないかと思っています。
つまり、

こいつハッキリしないんだよ……!!

物語の展開が、全体的に曖昧だと思いませんか。
実は私、『夜明けのヴァンパイア』の文庫本を買って初めて開いた時、まずルイがヴァンパイアになった理由と経緯がさっぱり読み取れなくて1回読むのをやめました。ルイがヴァンパイアになることを選んだ理由って、説明されているようでいて、実はこの本ではまったく語られていないんです。物語の土台に関わる部分なのに。
かろうじて言及しているのは、以下の記述だけ。

(※『死にたいと思いながら日々を生きていたが、目の前に明らかに超自然的な存在であるとわかる男が現れ、その瞬間、衝撃のあまり自分の悩みが何もかもどうでもよくなった』という内容の話を延々と語った後)
「だからあなたはヴァンパイアになろうと決意したんですね?」
若者が訊いた。ヴァンパイアはしばらく黙っていた。
「決意ね、どうもぴったりした言葉とはいえないな。だが、彼が部屋に足を踏み入れた時から避けられないことだった、ともいえないんだ。そう、避けられないことではなかった。それにしても、決意したとはいえないな。そうだなあ、彼が話し終えた時、他の決意ができなかったので、後ろをふりかえることなく、自分の道を進むことになった、とでもいおうか」(p.26-27)

……いや、わっかんねーから!!
何なの? 「君に僕の人生の話をしたいんだ」って言うから聞いてやってんのに、この人何なの? 話す気ないの!? 私もう帰る!!(←本を閉じる13歳の私)

かろうじて読み取れることは、
「ルイをヴァンパイアにする前に、レスタトは何かをルイに話した」
「ルイはヴァンパイアになることを避けることもできた」
「しかし、何らかの強制力が働いて、ルイはヴァンパイアになる道を選ばざるをえなかった(※もしレスタトが強制したのなら、『避けることはできなかった』ことになるので、レスタトは強要しなかったと考えられる)」
「ヴァンパイアになった時、ルイは決意ができていなかった」
ということくらいです。

ヴァンパイアになったルイは「レスタトがあれもしてくれなかった」「これもしてくれなかった」と不満を言い募りますが、読者には、レスタトがそもそも何て言ってルイをヴァンパイアにしたのかがわからないわけですから完全に置いてきぼりになるんです。置いてきぼりのまま、なんかわかんないけど話が進んでいっちゃうんです。
ルイは「ね、ね?レスタトってひどい奴でしょ?」って必死に共感を求めてくるけど、正直、その日初めて会っただけの相手なのに、そんなに失望するほど過大な期待をしていたというのも、私にとっては共感できなかった点でした。

だけど2巻を読むと、そこで初めて二人が恋愛関係だったことが明確になり、
「ああ、この時レスタトはルイに愛を告白して『絶対大事にするから、ヴァンパイアになって俺と結婚して』って頼んだんだな」
「ルイには選択の自由が与えられたけど、ルイもレスタトに魅了されて恋をしてしまったので、ヴァンパイアになりたくはなかったが、断ることができなかった」
「ルイは、レスタトへの恋心のためにヴァンパイアとなることに同意したが、深く考えて決意したわけではなかったので、人から吸血して生きる覚悟ができていなかった」
「ルイがヴァンパイアに変身したと同時に、レスタトのチャームは効力を失った。しかも変身後、ヴァンパイアとして生きることを初めて実感して戸惑いを感じた時のレスタトの対応が好ましくなかったことや、病気の父親ともども自宅に転がり込んできたことへの不信等々の理由で、やがてルイはレスタトの恋心をも疑い、『本当は財産目当てだったんだ』と思い込むに至る。その過程で、ルイ自身の恋心も冷めていったのではないか」
「そして200年経った今、ルイは『自分の人生を誰かに知って欲しい』と思ってインタビューを受けたものの、レスタトが語った偽りの愛を馬鹿正直に信じてヴァンパイアになってしまったことだけは、自尊心のために隠しておきたかった。だから、自分がレスタトに恋していたことだけでなく、レスタトが自分に愛を語ったことも隠して、『レスタトは最初から財産が目当てで自分を仲間にした』というストーリーで押し通そうとしたのでは?」
「『財産目当て』は、後々ルイが実際そうだと信じてたことなので嘘とは言い切れないが、過程を隠したために経緯が不透明になった」
などなど、一応の理屈が成立するんですよ。妄想だろって言われたらそれまでだけど、私が思いつく限りでは、他に説明できる要素がありません。
そう考えると、2巻の冒頭でレスタトが「この本はおびただしい嘘と矛盾に満ちている」と怒り嘆いているのも納得できます。

だいぶ話が脱線しちゃったんだけど、そんな風に、次巻で明かされる二人の関係を踏まえてフルニエール家の場面を読むと、ルイの疑心とレスタトの立場の弱さがものすごく際立ってて良いな、と思うわけです。
お互いに相手を攻撃することで自尊心を守ろうとしている構図って萌えるよね!? メンヘラホモBLの真骨頂!

しかも皮肉なことに、ルイはレスタトに失望しきっているので今更レスタトに何と言われても傷つかないのに対し、レスタトはルイを愛しているがゆえに、ルイの暴言にいちいち胸をえぐられているんだよ。

ああなんかもう語りが暴走しすぎて締め方が全然わかんないけど、言いたいこと言い終わったから終わるね!
また次回!

拍手[8回]

さて。意見の相違、価値観の相違などはありつつも、レスタト、ルイ、そしてレスタトの父親はしばらくの間(4年間とかどっかに書いてあったかも)、ルイの屋敷で平和に同居しておりましたが。
やがて、屋敷の使用人たちは、ルイとレスタトが人ならざる化け物であることに気が付き、騒ぎ始めます。
レスタトの父親は盲目で年老いており、自分の息子がとうの昔にヴァンパイアへ変身していることすら気が付いていません。そしてこの時、彼は病気で死にかけていました。
奴隷たちの疑心と敵意に晒された二人は、身の危険を感じつつも、レスタトの父親が自然死するまでは何とかそのまま誤魔化そうと苦心します。しかし、ついに奴隷たちの暴動を抑えきれなくなると、レスタトはやむなく父親を殺して逃げることを決断。ルイに「父親を殺してくれ」と頼みます。
自分にはとてもできないから、と。
一方、自分の死期が近いことを悟った父親は、自分の過去の罪を許すよう息子に乞うていました。

「レスタト」
老人は言った。
「せめて一度だけ、わしに辛く当たらないでくれ。一度でいい、昔のような少年に戻ってくれ、わしの息子」
彼は何度も繰り返した。「息子よ、息子よ」そのうち老人は何やらよく聞きとれないうわごとを言った。(中略)だが老人は、レスタトが思っているほど正気を失ってはいないことがわかった。ただ、正気ではあったが、何か凄まじい精神状態だった。過去の重荷が、ありったけの力で彼にのしかかっていた。(中略)
だが僕は、全力を尽くせば、彼の気を紛らわすことができると思っていたので、身をかがめ顔を近づけると囁いた。
「お父さん」
レスタトの声ではなく、自分の声でそっと囁いた。(中略)老人は、まるで暗い大海の波にひきこまれ、僕だけが彼を救うことができるかのように僕の手をつかんだ。彼はこの時、誰か田舎の教師のことを話した。名前は言わなかったがね。ただその教師は、レスタトが才気煥発の生徒であることを認め、教育を受けさせるために修道院に連れて行きたいと頼んだそうだ。老人は、レスタトを家に連れ戻し本を焼いてしまった自分自身を責めた。
「赦してくれ、レスタト」
彼は声を上げて泣いた。
僕は老人の手をしっかり握りしめた。こうすることが何か答えの代りにでもなればと願いながらね。だが彼は繰り返した。
「おまえは暮らしてゆくのに必要なものはすべて手に入れた。それなのにおまえは、あそこでの絶え間ない労働、それに寒さや餓えとたたかっていたあの頃のわしみたいに冷酷で残忍だ。レスタト、思い出すんだ。おまえは一番優しい子だったじゃないか! おまえが赦してくれさえすれば、神様はわしをお赦しくださるんだ」
そう、その時だった。本物のエサウ(『創世記』より。イサクとリべカの息子。弟のヤコブに、一杯のあつものと引替えに家督相続権を売った)が戸口からはいってきた。僕は身ぶりで、静かにと言った。だが、彼は気づかないようだった。そこで僕は慌てて立ち上がり、父親に遠くの彼の声を聞かせないようにしなくてはならなかった。(中略)
レスタトは老人を睨みつけた。
「殺してくれ、ルイ!」
はじめて聞く彼の声の訴えるような調子が、僕の心を動かした。そして、怒り狂って喰いついた。
「殺せ!」
「枕もとに行って、みんな赦すと言ってやれ。あんたが子供だった時、学校から連れ戻したことを赦すと言ってやれよ、さあ」
「何をだ!」
レスタトが顔を歪めたので、その顔は髑髏のように見えた。
「俺を学校から連れ戻したことをか!」
彼は両手を挙げると、ぞっとするような自暴自棄の怒号を発した。
「畜生! 奴を殺せ」
「いけない! 赦してやれ。さもなければ自分で殺れ。さあ、自分の手で父親を殺せ」
老人は、僕たちが何を話し合っているのか聞かせてくれと哀願した。彼は叫んだ。
「わしの息子よ、わしの息子よ」
するとレスタトは、気の狂ったラムペルスティルッキンが床を突き破ろうとするかのように地団太をふんだ。僕はレースのカーテンのところへ行った。ポワント・デュ・ラックの邸を取り囲む奴隷たちの姿が見え、話し声も聞こえた。彼らは暗闇の中で前後左右に動きながら近づいてきた。
「おまえは兄弟の中ではヨセフだった」
老人が言った。
「兄弟中で一番優れた子だった。でも、どうしてわしにそれがわかったろう。それを悟ったのはおまえが出て行ってしまった後だった。長い月日が経って、皆はわしに何一つ喜びも慰めも与えてくれずにいた。するとそんな時、おまえは帰ってきて、わしを農場から連れだしてくれた。だが、それはおまえではなかった。昔のおまえではなかった」
僕はレスタトに喰ってかかると、文字通りベッドの方へ引きずって行った。彼はこれまでになく弱々しかったが、同時に激しく憤ってもいた。彼は僕を振り払うと、枕もとにひざまずき、僕を睨みつけた。僕はきっぱりと囁いた。
「赦してやれ!」
「いいんだ、父さん。気を楽にしてくれ。私は何とも思ってないんだ」
彼は言ったが、その声はか細く、怒りを無理に押さえていた。
老人は枕の上で頭の向きをかえた。ほっとしたのか、何やら小声で呟いていたな。しかし、レスタトは既にその場をはなれていた。彼は戸口で一瞬立ちどまった。両手は耳にあてていた。
「奴らが来る!」
そう彼が囁いた。そして僕が目の隅に入るほどに振り向くと、
「彼を殺してくれ! お願いだ!」

老人は何が起こったかさえ知ることがなかった。(p.88-91)

ヴァンパイア・クロニクルズシリーズの中で、ルイ視点の第1巻とレスタト視点の第2巻以降でレスタトのキャラクターがかなり異なっているというのはよく言われることですが、この場面は、第1巻では珍しく、レスタト本来の人格が表れている貴重なシーンだと思います。

レスタトと父親の間にあった蟠りの原因は、ただ単に「学校から連れ戻したから」ではなくて、本当はもっと根が深い問題です(2巻を読むとわかります。学校のことも確かに一因ですが、それが全てではありません)。
ですが、父親は息子の受けた苦痛の正体をまったく理解できていないので、「お前を学校から連れ戻したことでお前が私を恨んでいることは知っている」と的外れなことを口にしています。

この時のレスタトの心情を想像すると、私は本当に胸が痛くなります。

レスタトだって、簡単に許せるものなら許したかったでしょう。誰だって親を憎みたくはありません。しかもレスタトは、一度家を出たのに、それでも父親の窮地を知って捨て置けず、大きな犠牲を払ってまで戻ってきたような男です。
でも、息子を虐待しておきながら、今の自分が不幸だからという理由でその罪を許せと言う身勝手な父親を許すことなど誰にできるでしょうか。
レスタトにしてみれば、戻ってきて、生活の面倒をみてやっただけで充分と思って欲しかったところだと思います。その上「許すと言ってくれ」だの、「もっと優しくしてくれ」「お前はそんな子じゃなかっただろう」だのと言われ続けるのは、やるせない思いがしただろうな…。(レスタトは父親に対して時折声を荒げることはあったが、ほとんどの時は優しく、親切にしていたとルイも言ってますしね)

結果的には、レスタトはルイに説き伏せられ、父親に「許す」と言いました。

ルイがレスタトに「許すと言ってやれ」と言い聞かせることができたのは、ルイがレスタトの過去をまったく知らなかったからに他ならないでしょう。もしこの時そばにいたのが二コラやガブリエルだったら、そんなことは絶対に言わなかったに違いありません。たとえ私でも言わない。

でも私は、レスタトが最後に父親に「許す」と言えたのは良かったのかもしれない、とも思うんです。
ここで「許す」と言えないまま父親を殺していたら、レスタトに後悔が残ってしまったかもしれないと思うからです。ルイに無理矢理「許す」と言わされたことで、レスタトは変に余計な後味の悪さとか、罪悪感とかを感じることなく先に進むことができたんじゃないかと。

この二人…良い夫婦だね…!!

でも、どっちにしても、この時のレスタトはきっとものすごく傷ついていたと思うんです。
だからせめて、あえて語られてはいないけど、ルイがこの後レスタトをたくさん甘やかしてあげてくれたといいな。この直後はそんな暇ないけど、フルニエール家へ逃げのびてからでもいいから。
いっぱい抱っこして、膝枕で眠れるまで撫で撫でしてやってくれ。

拍手[2回]

INTERVIEW WITH THE VAMPIREという表題の通り、人間のインタビュアー「若者(続刊にてダニエルという名前が明らかになりますが、この話では無名)」が、200歳を越えるヴァンパイア・ルイからその人生の物語を聞き出していくというこの物語。
ストーリーは1791年ルイジアナで、人間だった頃のルイがプランテーション農園の農園主をしていたところから始まります。

フランス系移民で、当時25歳だったルイは、黒人奴隷を使って広大な農園を経営していました。有り余る富と美貌の持ち主でしたが、些細な(?)諍いがもとで弟を死なせてしまったことをきっかけに家族の中で孤立するようになり、自身も自責の念に苛まれ、生きる気力を失ってしまいます。
自暴自棄な生活を送りながらひたすらに死を願っていた、そんなある日、彼はヴァンパイア・レスタトに見初められ、ヴァンパイアとなって彼と共に生きることを運命付けられるのです。

そう。レスタトとルイの70年にも及ぶ結婚生活、繰り広げられる痴話喧嘩、愚痴、浮気、離婚と再婚、そして惚気。その全てはここから始まるのです……!!

いっとくけどこの小説、それ以上の何物でもないから(断言)。いや、もしかしたらこの本を真面目に読んで、崇高な教訓を得ている読者もたくさんいるのかもしれませんが、少なくとも、私がこのブログでシリアスな感想ばっかり書くなんてことは期待しないでいただきたい。
アン・ライス女史には非常に申し訳ないのですが、私は哲学や宗教観なんてものにあまり興味がなくて、ただメンヘラホモカップルのラブストーリーを楽しみたいだけの人なので、この先を読む人はその前提をよく理解しておくように。よろしいか?
よろしいならば先へ進もう。

この本では、人間をヴァンパイアにするためには、まずヴァンパイアが人間の血を致死量寸前まで吸い、体内で自分の血と混ぜた血液を人間に飲ませる、ということをしないといけないのですが。
この、最初にレスタトがルイの血を吸うシーンの描写が、どう読んでも『二人の初セックスを濁して濁して表現した』としか思えない件について、まず触れておきたいと思います。

「さあ、私のいうことをよく聞くんだ、ルイ」
こう言うと、彼は階段の上の僕のそばに横になった。彼のしぐさがあまりにも優雅で理性的だったので、まるで恋人のような気がしてしまった。僕ははじかれるように身を引いた。だが、彼は右腕を僕にまわしてぴったりと胸に引き寄せた。そんなに近くに寄り添ったのは初めてだった。すると薄明りの中で、彼の目の素晴らしいきらめきと皮膚の異常な仮面がはっきりと見えた。僕が身動きしようとすると、彼が右手の指を僕の唇に当てて言った。
「じっとしてるんだ」
(中略)
 僕はもがきたかったが彼は指にぐっと力をいれ、僕のうつぶせの体を押さえこんだ。儚い抵抗をやめるや否や、彼は僕の首に深く歯を立てた。(p.33)

語りは淡々としているけど、この回想の中のルイ、明らかにうっとりしちゃってますよね? 完全に魅了されている。
イケメンの強姦魔に襲われて、うっとりしちゃってる間に押し倒されて、抵抗したけど抑え込まれた過程を淡々と語られた挙句、「わかるだろう?」と同意を求められるダニエルの気持ち、少しは考えてあげてください。

「いいえ……つまり、わかるんですが、ぼくが言いたいのは、あのう……」(p.36)

戸惑ってるだろうが!可哀想に。

しかし、そんなラブラブレイプで始まった二人のストーリーですが、間もなく…どころかこの直後から、ルイにかかっていた恋の魔法はどんどん効力を失っていくことになります。
ルイが、ヴァンパイアへと作り替えられていく自分の体の変化に戸惑い、「死んでしまう!」と言って騒ぐシーン。

「誰にでもあることさ」
彼はそう言い張り、僕を助けようともしなかった。思い出すたびに今でも彼を軽蔑するよ。こわがっていたからじゃない、もっと敬虔な態度でこういった変化に僕の注意を向けさせてくれてもよかったのに、と思うからだ。夜を眺め感じたのと同じようなうっとりした気持ちで自分の死を見守ることができるように、僕の気を鎮め、言い聞かせてくれてもよかったのだ。(p.38)

一生に一度の結婚式だったのに、何もかも初めてで不安でいっぱいだったのに夫が気を使ってくれなかった!と怒る嫁。ついさっき、血を吸われる瞬間まで大人しくうっとりレスタトに抱っこされていましたが、ここにきて一気にドリームから醒めた感じです。この時の失望と恨み、200年経っても忘れてませんから!!
ちなみにこの点に関しては、レスタト視点で語られる続刊にて、「そんなことねぇし! 俺あの時めっちゃ気ぃ使ったし、嫁が後悔しないようにちゃんとゆっくりコミュニケーションしたよ!(概意)」と弁解している箇所があります。真実はどっちだったんでしょう。深くわかり合うに至らなかったことは確かですね。
何はともあれ、ルイを仲間にしたレスタトは、年老いた人間の父親と共にルイの家に居候することになりました。
どうでもいいけど、ここでレスタトがルイの家に転がり込むに至るまでには、どういうやり取りがあったんでしょうね?
続刊レスタトの過去編で明かされるところによると、レスタトの父親は貧乏ですがレスタトには自分の財産があり、この時点でも経済的には困っていなかったことがわかります。それなのに親子ともども身一つで嫁の家に転がり込んだために、嫁は彼らのことを貧しい農民だったに違いない、レスタトは結局財産目当てで近づいてきたヒモなんだと誤解することになるわけです。レスタトの資産があれば、自分の屋敷を持つことは簡単だったはずなのに。
レスタトは自伝(として出版される続刊)で「ニューオーリンズにやってきてすぐ、私はルイという名の若きブルジョワジーと運命的な恋に落ちた」とはっきり書いてるので、多分お金なんかは関係なく、恋人と一緒に暮らしたかっただけなんだと思うんですけど、そういうことをちゃんと話さなかったんですねえ。
その上、自分の父親まで面倒見させるなんて…誤解されて当然だよ…。

いよいよ朝が近くなった頃、レスタトはルイに言います。

「お前の分の棺はまだ用意できてないんだ。今朝は私と一緒に寝なくちゃならないぞ」

ルイは嫌がって「僕は物置で寝たい」と訴えますが、レスタトはそんなことはあり得ない、自分が何者かわかっているのか(ヴァンパイアは必ず棺で寝るものだ)、などと言い募って譲りません。後々ストーリーが進むにつれ、ヴァンパイアといえども日光に当たりさえしなければ物置だろうがどこだろうが眠るのに何の問題もないことが発覚しますが、この時点ではそんなことは知る由もないルイと読者たる我々。

レスタト、ルイと一緒に寝たくて必死。

そんなレスタトに押し切られ、結局、この日はレスタトの棺に二人で体を重ねて眠ることになりました。
この時のことを振り返り、ルイは言います。

「いかに彼が美しく魅惑的だとはいえ、こんなにぴったり体を合わせている嫌悪感に戸惑ってしまった」と。

嫌悪感を感じた、と言ってますが、腐女子としてはやはりレスタトを「美しく魅惑的だ」と評価している点に注目したいところ。後々自分でも言ってるけど、ルイはやっぱり、口ではどんなにボロクソ言ってても、レスタトの外見を含めた総合的魅力には全然抗えてないんだよね。
「こんな奴全然タイプじゃなかったのに、なんで結婚しちゃったんだろう…(なんでこんな奴が好きなんだろ…)」って奴だよね。

そんなこんなで同衾した翌晩目覚めると、ルイは完全にヴァンパイアへの変身を終えていました。ヴァンパイアになると、人間だった頃とはケタ違いの身体能力、知覚機能が備わるのです!
とはいえ、自身の力を試す前にまずは棺を仕入れなくてはいけません。
ルイの新しい棺を手に入れるため、二人はさっそく死体置場へ出かけていきます。

「最初に明らかになったことは、レスタトと僕とで棺を霊柩車に積み込み、もう1つの棺を死体置場から盗み出している時でさえ、レスタトなんかちっとも好きじゃないということだった。僕はまだレスタトからは遠い存在だった。ただ、肉体が死ぬ以前よりは遥かに彼に近い存在だったが、(中略)それにしても死ぬ前の僕にとって、レスタトはそれまで経験したこともないほどのまったく圧倒的な『体験』だった。煙草の灰が落ちそうだよ」
「あっ」
若者は慌てて灰皿で煙草をもみ消した。
「つまり、二人の距離が近づいた時、そのう……彼が魔力を失った、ということですか?」
彼は視線をすばやくヴァンパイアに移すとたずねた。両手は前よりたしかな手つきで煙草とマッチを取り出していた。
「そう、まさにその通りだ」
ヴァンパイアはいかにもうれしそうに言った。(p.43-44)

…レスタト(;_;)

「あんな奴、大っ嫌い!」って言われちゃってますね(笑)
この、レスタトとルイが二人揃ってコソコソ棺を盗み出しているシーンって、想像すると結構マヌケでしてね。ルイが幻滅したのもちょっとわかるかなーという気がいたします。

だってね。

ある日、人間離れした美貌のヴァンパイアが突然目の前に現れる。すっかり魅了されて「一緒に行こう」と誘われるままに付いて行ったは良いものの…。

「あ、お前の寝床はまだ用意できてないよ。これから死体置場から盗んでこなきゃならないんだ。おっ、これなんか良さそうじゃないか? これにしよう。ちょっとそっち持って。せーので持ち上げて、合図したら速やかに運び出すぞ。足音を立てるなよ。せーのっ、と……あっヤバい隠れろ、人が来た!」

…とかいうことになったら、いくらイケメンでもちょっとどうよ!?
ダサいしカッコ悪いし、そりゃ棺を盗んでるのは嫁の為だけど、詐欺られた感は否めないと思うんだ。
レスタト、めいっぱい格好つけて口説いて誘惑してプロポーズするのはいいけど、それならちゃんと最後まで格好つけなきゃダメだよ!

プロポーズの言葉は、

「ああ、私の美しいルイ。君のその瞳が、その声が、骸となって喪われるなんて堪えられない。私と一緒に行こう。」

なんて美辞麗句を並べるのでなく、

「俺と一緒に棺桶を盗んでくれないか」

くらいにしとくべきだったんだよ。そしたらきっと幻滅されずに済んだんだよ。
※本文にはプロポーズの言葉は書いてないけど、この本はルイ視点で書かれており、レスタトの口から「嘘ばっかりの内容だ」と言われてるので、現実にはもっと色々なやり取りがあったはず!というのが梔子的鉄板。

ところで、「レスタトはそれまで経験したこともないほどのまったく圧倒的な『体験』だった」って、まるで「あいつセックスだけは完璧だったのに」みたいな風に聞こえちゃうからやめろ。

と、まあとにかくそのような感じで、ルイはヴァンパイア人生の第一歩を踏み出しました。
そしてその後、レスタトに連れられて初めての『食事』へ出かけますが、まだ人間だった頃の感覚が抜けないルイは人間を殺すことができず、レスタトを苛立たせます。
レスタト自身は殺人に抵抗を感じたことはなく、ヴァンパイアになった瞬間から食事を普通に楽しめていたので、レスタトにはルイの気持ちが理解できません。
『混乱して戸惑う自分を優しく宥めてくれなかった!』
『僕は何もわからなかったのに、ちゃんとリードして丁寧に教えてくれなかった!』
と、ここでもまた夫に対する恨みを募らせるルイ。
ルイは常に、『レスタトは、やって当然のことをしなかった最低な奴』という論調でレスタトを責めるのですが、こうして読んでいくと実は『レスタトはもっと優しくしてくれるべきだった』『もっと僕に気を使って、細やかに世話を焼いてくれるべきだった』という主張がメインであることがわかります。
美人で賢くて優しくて可愛いけど、おそろしく手がかかる嫁ルイ。

この時、レスタトはちゃんとルイを獲物のところへ連れていき、「ほら、やってしまえ」と促してやり、ルイがしくじると「まったくお前にはうんざりだよ」と言いながらももう1人別の獲物を捕らえてやり……と、客観的に見ると、そんなに言うほど至らなかったとは思えないんですが、ルイは、

「殺しというのは平凡な行為じゃない。ただ血を飲んで満腹になればいいというものではない」
「他者の生命を体験することだ。しかもしばしば、その他者の生命が血を通してゆっくりと失われる体験でもあるのだ。殺しとは、自分の生命が何度も何度も失われるという体験でもある」
「最初の殺しをするのに、ある程度静かで威厳のある場所を選んでくれてもいいものを、それさえもしてくれなかった」
「(レスタトは)この体験をいろいろなやり方で豊かなものにしてくれても良かったんだ。だが、彼はそうはしてくれなかった」(p.49)

と言って譲らない。
ルイの言ってることは、人間の生活に置き換えるとたぶん、
「食事はね、ただ食って満腹になるだけの行為じゃないんだよ。僕たちの為に殺された牛や豚、鶏の命を、自分の命に取り込んでいく儀式なんだ。
最初の食事を肉から始めるなんてハードルが高すぎるよ。まずは野菜から始めて、他者の生命を奪って生きるということの意味を、段階を踏んで教えてくれるべきだろう。
それなのに彼は僕を喧しい場末のレストランに連れて行って、いきなり牛肉のステーキを並べたかと思うと、無理矢理ナイフとフォークを握らせて『さあ食えよ』って言ったんだ!(号泣)」
みたいな感じだと思うんです。
いや、わかるよ? 言ってることは。確かに、生命を粗末にしちゃいけないし、肉にしても植物にしても犠牲の上に食事が成り立ってるってことは、それぞれがちゃんと意識して日々感謝を捧げて生きなきゃいけないと思うよ?でもさ…

いやお前、25歳にもなった男にそこまで必要だとは思わないだろ。

いくら「嫁ラブ! 繊細で傷つきやすい大事な大事な美人さん、俺が守ってあげるからねマイ・ハニー」を地でいってるレスタトでも、そこまでは考えが及ばなくても仕方ないだろ。

確かに、ルイはヴァンパイアとしてはまだ赤ちゃんも同然だったわけだけど…、そういう教育が本当に必要だったのはルイではなくて、クロウディアだったんじゃないだろうか。でもルイだって、クロウディアにそんなことは教えてやらなかったに違いないんだよ。
と考えると、どうもこの点に関して、ルイにレスタトを責める資格はあまりないように梔子には思えるのですが。

ま、とにかくルイにとってはそんなとこも不満で、新婚早々から二人の溝は少しずつ深まっていきましたとさ。

拍手[6回]

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