忍者ブログ
梔子ゆきがヴァンパイア・クロニクルズの話をするために作ったブログ。偏見の混じった感想など。
| Admin | Write | Comment |
プロフィール
HN:
梔子ゆき
性別:
非公開
自己紹介:
腐女子歴がそろそろ人生の半分を越えた。
P R
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

レスタトの父親を殺した後、二人はポワント・デュ・ラック(ルイが経営していた農園)の屋敷を焼き払い、逃亡の旅に出ます。ルイが殺したリオンクール侯爵の死体(書き忘れましたがレスタトの父親のことです)や、レスタトが殺戮した奴隷たちの死体はもはや隠しようがなく、ルイがそれ以上そこで人間のふりを続けて財産を管理していくことは不可能でした。それに、人間社会の中で正体を隠して生活することにルイ自身も疲れ果ててしまっていたのです。
この火事で、ついに人間としてのルイは公式に死亡しました。

逃亡するといっても、二人はヴァンパイア。夜明けまでもう時間が無いとなれば、それほど遠くまでは行けません。
そこでルイが頼った先は、すぐ隣の土地で農園を経営していた同業者、フルニエール家の女主人でした。

バベットという名のその人は、女の身で立派に農園を切り盛りできる程の器量があり、精神的にも成熟した聡明な女性でした。ついでに言っておくと、彼女はさかのぼること数年前、弟をレスタトに殺されたがために女だてらに家業を背負わざるをえなくなり、その結果社会から白い眼で見られるようになってしまった、という気の毒な境遇の人です(女が社会的な仕事を得ること自体に否定的だった時代の話なので)。
かねてから彼女に淡い恋心を抱いていたルイは、ヴァンパイアとなって以降も、たびたび正体を隠して彼女を助け、陰ながら励ましていました。バベットは姿こそ見ていないながらも恩人の存在は認識していて、ルイのことを「天使」だと信じていました。いわば、「オペラ座の怪人」に出てくるファントムとクリスティーンのような関係だったわけです。

ルイとレスタトがポワント・デュ・ラックを焼き捨てた当時、彼女は既に他の男と結婚していましたが、ルイは、自分に恩のあるバベットであれば、一日くらいは匿ってくれるはずだと考え、レスタトを連れてフルニエール家へ身を寄せようとしたのです。

ところが、ここでもルイとレスタトの意見は激しくぶつかり合います。
二人はここに至るまでも散々喧嘩していますが、この時交わした売り言葉に買い言葉は、かなり決定的な内容でした。

レスタトは、フルニエール家へ潜伏することには賛成していましたが、「フルニエール家の家人を傷つけるべきではない」というルイの意見には反対でした。フルニエールへ逃げると決めた時から、レスタトは一家を皆殺しにするつもりでした。べつに恨みはありませんが、邪魔なので。

「そんなことをしてどんな平和がもたらされるというんだ」
僕はたずねた。
「あんたは僕のことを馬鹿よばわりするけど、あんたこそずっと馬鹿だったのだ。あんたがなぜ僕をヴァンパイアに仕立て上げたか、僕が気づいていないとでも思ってるのか? あんたは一人では生きていけなかったんだ。簡単なことさえどうすることもできなかったんだ。これまで何年間も、あんたがえらそうに坐ってる間、僕が何から何まで処理してきたんだ。あんたは、生きていく上で伝授できることはもうなにもない。僕はもうあんたは要らないし、相手にするつもりもない。あんたの方こそ僕がいないと困るんだ。だから、もしフルニエールの奴隷の一人にでも手をつけたら、あんたを追い出すぞ。二人の間の戦争だ。言って聞かすまでもないが、暮らしをたてるには僕の方がずっとすぐれているんだ、あんたの体全体かかっても僕のこの指一本にも敵わないほどにな。僕の言う通りにするんだ」
そうとも、彼はぎょっとしたよ。何もそんなに驚くにはあたらないのに。そして彼は抗議した。まだまだ教えることがたくさんある、たとえば、僕が殺してしまうと突然の死を自らにもたらすかもしれないものや人々のタイプ、決して行ってはならぬ世界のいろいろな地域云々、と我慢できないようなたわごとを並べ立てた。だが彼にかかわっているひまはなかった。フルニエール家の奴隷監督の小舎にあかりがともった。彼は逃げてきた奴隷と彼の配下の奴隷の間の騒ぎを鎮めようとしていたのだ。(p.97-98)

バベットは、突然やってきた奇怪な訪問者に大層驚きました。そして、彼らが普通の人間でないことにも薄々気が付きましたが、ルイに乞われると、葡萄酒を保存している食料貯蔵庫の鍵を二人に貸してやりました。
そして二人は内側から扉を塞ぎ、そこで1日を凌ぐことができましたが、翌晩目覚めると、外側からも閉じ込められていることに気が付きます。
そこに至って、ルイに脅されて皆殺しを思いとどまっていたレスタトの怒りは爆発しました。

「私は父が生きている間だけ、おまえが必要だったんだ」
どこか抜け穴でもないかと必死に探しまわった挙句、彼は言った。
「もう我慢するつもりはないぞ。いいな」
彼は僕に背を向けようともしなかった。僕は階上から人の声が聞こえないかと、体をこわばらせて坐っていた。せめて黙っていてくれればいいのにと思ったが、バベットに託している希望はもちろん、抱いている気持ちだって彼に打ち明けようとは一瞬たりとも思わなかった。
(中略)
レスタトが煉瓦の壁沿いに手で触ってまわるのが目にはいった。その厳しく我慢強いヴァンパイアの表情は、挫折感で歪んだ人間の顔のようだった。今すぐにも彼と訣別しなくては、もし必要とあらば海を隔てて別れなくては、そう僕は固く心に誓った。するとその時、長いあいだ彼を我慢してきたのは僕に自信がなかったからだ、と気づいた。(中略)レスタトと一緒に過ごしたというのも、僕ひとりでは見つけることのできない、ヴァンパイアとしての本質的な秘密を彼が知っているのではないだろうかと思っていたからだった。彼は僕が知っている唯一のヴァンパイアだったからね。彼はヴァンパイアになったいきさつも、どこに行けば同類を一人でも見つけられるかも、決して明かそうとしなかった。このことが僕を大いに悩ませていた、実に四年間もね。僕は彼に愛想がつき、彼のもとを離れたいと思った。でも、そんなことができるだろうか?
こういったことが僕の心に浮かんでは消えている間、レスタトは痛烈な罵詈雑言を浴びせつづけた。おまえなんか必要ない。もう我慢するつもりはないぞ、特にフルニエール家の脅しなんかにはな。(中略)ついに彼は言った。
「いいか! (中略)  こんなときに感傷的になるな! おまえって奴は何もかも台無しにする」
「あんたはこれから一人立ちして暮らしたいのか」
僕は彼にたずねた。彼の口からそれを言わせたかったんだ、僕には勇気がなかった。というより、自分でも自分の気持ちがはっきりしなかったんだ。
「私はニューオーリンズに行きたいんだ! おまえなんか必要ないって言ったのは、ちょっと脅してみただけさ。だがここを脱け出すにはお互いが必要だ。お前はまだ、どうやって自分の力を使ったらいいかわかっていない。生まれながらのヴァンパイアの感覚を持っているわけじゃないんだ。あの女がやってきたらうまく説得しろ。だがもし他の奴らを引き連れてきたらヴァンパイアらしく振舞う覚悟をしとけ!(中略)殺る覚悟を!」(p.100-103)

……このへんのやり取りを読んでいるとさ、ルイ視点の文章なのに、レスタトの心情描写なんて一文字も入ってないのに、レスタトの心がガンガンえぐられていくのが目に見えるような気がするよね。2巻で、レスタトがどれだけルイを愛していたか知ってから読み返すと、特に。めちゃめちゃ胸が痛い。

だからこのシーン好きなんだけどね!(笑顔)

たぶんレスタトはこの時まで、自分とルイは相思相愛の恋人だと信じていたんだと思います。たとえ気持ちの強さに差があったとしても、これほどとは思っていなかったんじゃないでしょうか。
ルイにこんな風に言われては、レスタトだって「財産目当てなんかじゃない。愛してる」なんてとても言えなかっただろうな。4年間も溺愛してきて、ある程度はわかり合えていると思ってたのに、相手は自分をただのヒモだとしか思ってなかったなんて惨めすぎるじゃん。自分が馬鹿みたいで、可哀想すぎるじゃん。
「ばか!俺だってお前なんか要らないよ!いなくたって生きていけるよ!」って、言うしかなかったんだろうな。
ルイに「おまえなんかいらない」って言われた翌晩、「俺だって親父のことさえ無きゃおまえなんか!」って言い返してるのは明らかに意趣返しでしかないんだけど、ルイに「よし、別れたいんだな?」って普通に聞き返されちゃったから、「そうじゃなくて、早くここを出たいだけだよ。ちょっと脅かしただけだよ」って慌てて打ち消して。「捨てちゃうからな!」なんて、ルイに対しては既に脅しとしては成り立ってないのに、そんなことにも気づかないふりをするレスタトが哀れです。

やがて、そんな二人の前にバベットが現れます。
彼女は、おそらく奴隷たちの話を聞いたのでしょう。珍客が隣の農園から逃げ出してきた化け物だと――かつてポワント・デュ・ラックの主人だったモノであることも知っていました。
恐慌状態に陥り混乱している彼女に、ルイはつとめて冷静に、逃走用の馬車を用意してくれるように頼みます。危害を加えるつもりはない、と訴えかけるルイの隣で、レスタトはもちろん殺る気満々。
攻撃態勢に入ったレスタトでしたが、ルイが「自分がバベットと話をするから、その間に馬と馬車を確保して来い」と指示すると、渋々彼の言う通りにしてやりました。
バベットと二人きりになったルイは、「悪魔」と罵られながらも、バベットに理解を求めました。自分は悪魔などではないこと。その証拠に、今まで何度も彼女を助けてきたこと。彼女に対して偽りを述べたことは一度もないこと。
しかし、ルイの言葉は彼女には届きませんでした。火を灯したランタンを投げつけられ、一瞬のうちに炎に包みこまれるルイ。駆けつけたレスタトによって消火され、ルイは命に別状はありませんでしたが、ルイに火をつけたバベットをレスタトは許しませんでした。
すかさず彼女に襲いかかるレスタト。しかし息の根をとめられる寸でのところで、ルイが彼女を救いました。
そして二人は茫然自失する彼女を残して馬車を駆り、ニューオーリンズへと逃げ延びていきました。

ところで、一日閉じ込められた密室の中で「もう別れる」だの何のと一通り言い合った二人。
口では「おまえなんかいらない」と言ったレスタトでしたが、彼は本当は死んでもルイと離れたくありませんでした。
「ここを出るためにはお互いの力が必要だ」と言ってとりあえず別れを引き延ばすことに成功した彼は、逃げおおせた後も彼を繋ぎ止めておく方法をずっと考えていたことでしょう。
そしてレスタトはこの後、ルイを繋ぎ止めたい一心で、自分の命を犠牲にしたといっても過言ではない大罪に手を染めるのです。

いやはや。
こうして改めてストーリーを読み解いて、キャラクターの心理に目を向けてみると、レスタトのルイに対する愛の半端ない重さには度肝を抜かれますな!
実際のところ、この『夜明けのヴァンパイア』を読んだだけでは、レスタトとルイの関係性はハッキリしない部分があります。語り手であるルイ自身がレスタトへの好意を認めておらず、二人が性的接触をしたという明確な記述が乏しいからです。
しかし、レスタトがルイを「愛しい恋人」「唯一無二の伴侶」と想って大切にしていたことは、第2巻で彼本人の口から語られる事実です。なんと驚いたことに!梔子の妄想ではないのです。(もちろん、この記事の中には私個人の主観も含まれてはおりますが)
私は、初めてこの本を読んだ時には、この場面に関して別にどうとも思わなかったのですが、ルイに対するレスタトの恋愛感情を知った上で読み返した時、「良いシーンを書いたな~!!」としみじみ思いました。

『夜明けのヴァンパイア』感想と銘打っておきながら、こんな風に「2巻では~」とやたら言うのはどうかと自分でも思うのですが、私が考えるに、結局『夜明けのヴァンパイア』はこれ1冊では成り立っていない本なんですね。
どういうことかというと、この1冊から得られる情報量だけだと、物事の因果関係とか、キャラクターの行動の動機が説明できないケースがわりとあるんです。
その最たる例は、クロウディアですが…この点に関しては、彼女の登場場面の解説で語った方が良さそうです。
多分、世の中の大体の人は、この本を「読みにくい」と感じるでしょう。その理由は文章自体のくどさとか、内容の宗教的・哲学的要素のためだと説明されがちですが、私は少し違うんじゃないかと思っています。
つまり、

こいつハッキリしないんだよ……!!

物語の展開が、全体的に曖昧だと思いませんか。
実は私、『夜明けのヴァンパイア』の文庫本を買って初めて開いた時、まずルイがヴァンパイアになった理由と経緯がさっぱり読み取れなくて1回読むのをやめました。ルイがヴァンパイアになることを選んだ理由って、説明されているようでいて、実はこの本ではまったく語られていないんです。物語の土台に関わる部分なのに。
かろうじて言及しているのは、以下の記述だけ。

(※『死にたいと思いながら日々を生きていたが、目の前に明らかに超自然的な存在であるとわかる男が現れ、その瞬間、衝撃のあまり自分の悩みが何もかもどうでもよくなった』という内容の話を延々と語った後)
「だからあなたはヴァンパイアになろうと決意したんですね?」
若者が訊いた。ヴァンパイアはしばらく黙っていた。
「決意ね、どうもぴったりした言葉とはいえないな。だが、彼が部屋に足を踏み入れた時から避けられないことだった、ともいえないんだ。そう、避けられないことではなかった。それにしても、決意したとはいえないな。そうだなあ、彼が話し終えた時、他の決意ができなかったので、後ろをふりかえることなく、自分の道を進むことになった、とでもいおうか」(p.26-27)

……いや、わっかんねーから!!
何なの? 「君に僕の人生の話をしたいんだ」って言うから聞いてやってんのに、この人何なの? 話す気ないの!? 私もう帰る!!(←本を閉じる13歳の私)

かろうじて読み取れることは、
「ルイをヴァンパイアにする前に、レスタトは何かをルイに話した」
「ルイはヴァンパイアになることを避けることもできた」
「しかし、何らかの強制力が働いて、ルイはヴァンパイアになる道を選ばざるをえなかった(※もしレスタトが強制したのなら、『避けることはできなかった』ことになるので、レスタトは強要しなかったと考えられる)」
「ヴァンパイアになった時、ルイは決意ができていなかった」
ということくらいです。

ヴァンパイアになったルイは「レスタトがあれもしてくれなかった」「これもしてくれなかった」と不満を言い募りますが、読者には、レスタトがそもそも何て言ってルイをヴァンパイアにしたのかがわからないわけですから完全に置いてきぼりになるんです。置いてきぼりのまま、なんかわかんないけど話が進んでいっちゃうんです。
ルイは「ね、ね?レスタトってひどい奴でしょ?」って必死に共感を求めてくるけど、正直、その日初めて会っただけの相手なのに、そんなに失望するほど過大な期待をしていたというのも、私にとっては共感できなかった点でした。

だけど2巻を読むと、そこで初めて二人が恋愛関係だったことが明確になり、
「ああ、この時レスタトはルイに愛を告白して『絶対大事にするから、ヴァンパイアになって俺と結婚して』って頼んだんだな」
「ルイには選択の自由が与えられたけど、ルイもレスタトに魅了されて恋をしてしまったので、ヴァンパイアになりたくはなかったが、断ることができなかった」
「ルイは、レスタトへの恋心のためにヴァンパイアとなることに同意したが、深く考えて決意したわけではなかったので、人から吸血して生きる覚悟ができていなかった」
「ルイがヴァンパイアに変身したと同時に、レスタトのチャームは効力を失った。しかも変身後、ヴァンパイアとして生きることを初めて実感して戸惑いを感じた時のレスタトの対応が好ましくなかったことや、病気の父親ともども自宅に転がり込んできたことへの不信等々の理由で、やがてルイはレスタトの恋心をも疑い、『本当は財産目当てだったんだ』と思い込むに至る。その過程で、ルイ自身の恋心も冷めていったのではないか」
「そして200年経った今、ルイは『自分の人生を誰かに知って欲しい』と思ってインタビューを受けたものの、レスタトが語った偽りの愛を馬鹿正直に信じてヴァンパイアになってしまったことだけは、自尊心のために隠しておきたかった。だから、自分がレスタトに恋していたことだけでなく、レスタトが自分に愛を語ったことも隠して、『レスタトは最初から財産が目当てで自分を仲間にした』というストーリーで押し通そうとしたのでは?」
「『財産目当て』は、後々ルイが実際そうだと信じてたことなので嘘とは言い切れないが、過程を隠したために経緯が不透明になった」
などなど、一応の理屈が成立するんですよ。妄想だろって言われたらそれまでだけど、私が思いつく限りでは、他に説明できる要素がありません。
そう考えると、2巻の冒頭でレスタトが「この本はおびただしい嘘と矛盾に満ちている」と怒り嘆いているのも納得できます。

だいぶ話が脱線しちゃったんだけど、そんな風に、次巻で明かされる二人の関係を踏まえてフルニエール家の場面を読むと、ルイの疑心とレスタトの立場の弱さがものすごく際立ってて良いな、と思うわけです。
お互いに相手を攻撃することで自尊心を守ろうとしている構図って萌えるよね!? メンヘラホモBLの真骨頂!

しかも皮肉なことに、ルイはレスタトに失望しきっているので今更レスタトに何と言われても傷つかないのに対し、レスタトはルイを愛しているがゆえに、ルイの暴言にいちいち胸をえぐられているんだよ。

ああなんかもう語りが暴走しすぎて締め方が全然わかんないけど、言いたいこと言い終わったから終わるね!
また次回!

拍手[9回]

PR
この記事にコメントする
NAME:
TITLE:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
≪ Back  │HOME│  Next ≫

[16] [15] [14] [12] [11] [10] [9] [8] [4] [3] [2]

Copyright c 偽牙工房 ~Fake Fang Factory~。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By 深黒 / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]